今でこそ当たり前になりましたが、オートエアコンシステムにはさまざまな工夫が施されています。ここでは代表的な機能をご説明したいと思います。(フルオートエアコン)
ご存じかと思いますが、オートエアコンシステムというのは、温度設定するだけで、乗員が感じている不快感(暑さ・寒さ)をシステムとして計算し、吹き出し温度や風量、配風までを自動で行う機能です。
その際に重要なのが各種センサーです。センサーには、
などがあります。
そしてまずは設定温度と外気温センサーが検出した温度差を基に、目標吹き出し温度、風量、配風を決めます。
冷房を例にとってみると、設定温度と室内温度との差が大きければ大きいほど吹き出し温度を下げて風量も強くし、差が小さくなるに従って吹き出し温度と風量を弱めます。
ただし温度差が小さくても、日射が強い場合などは体感温度が高くなるため、日射の強さに応じて風量を調整します。
夏場に車両を青空駐車していた場合など、設定温度と室内温度との差が著しく大きい場合は、強制的に内気循環モードになって室内温度を徹底的に下げます。
フロントガラスの曇りを取るためにデフロスタースイッチを押した場合は、強制的に外気導入+A/C(コンプレッサー)オンとなります。
まれに勘違いされている方もいらっしゃいますが、設定温度=吹き出し温度ではありません。
100℃の熱湯を50℃にするために50℃のお湯を注いでも50℃にならないのと同じで、設定温度が24℃であれば吹き出し温度はそれよりも低い必要があります。
ただし取り込んだ空気温度が異常に高ければ、エバポレーターを通過させても目標としている吹き出し温度まで下がらない場合もあります。あくまでも冷やすことができるのはエバポレーターのフィンに触れている間だけですので、性能限界があります。
さらに日本の夏場は湿度が高く、これはエバポレーターの冷却性能に大きく影響します(湿度が高ければ冷えにくい)。
参考までに、吸入温度+湿度に応じた吐出温度は、車種ごとに設定されている性能曲線図によってある程度把握することが可能です。以下の例では、同じ吸入空気温度でも、湿度が30%の時と80%の時では吐出空気温度が約13℃も異なっていることが分かります。
より広い視野で見ると、夏場はエバポレーターから実際の吹き出し口までにある通気口も熱くなっていますので、冷やされた空気が通気口の温度によって吹き出す前に暖められてしまいます。
まずは内気循環によって強制的に室内の空気を繰り返しエバポレーターに触れさせて、通気口を含めて全体が冷えるとともに湿度が下がるまでは、涼しいと感じる環境にはなりません。
暖房も同じで、ヒーターコアに触れて暖まった空気でも、吹き出し口までの距離が長ければ必然的に吹き出し温度は下がってしまいます。
エバポレーターやヒーターコアは、一般的に助手席足元奥にありますので、そこから距離が遠ければ遠いほど、吹き出し温度は変わってしまうということを覚えておきましょう。
ここまで計3回に渡ってカーエアコン全体についてご説明しました。
エアコン専業の方からすると何でもない初歩の初歩だったと思います。しかし、実はここまでをしっかりと理解しているだけで、ある程度のカーエアコンの診断整備をできるレベルに近づいていたりします。
カーエアコンもまだまだ進化を続けています。基本をしっかりと理解して、これから登場する新技術に備えましょう。
それでは次回もお楽しみに!
カーライフプロデューサー テル
1981年生まれ。自動車整備専門学校を卒業後、二輪サービスマニュアル作成、完成検査員(テストドライバー)、スポーツカーのスペシャル整備チーフメカニックを経て、現在は難問修理や車両検証、技術伝承などに特化した業務に就いている。学生時代から鈴鹿8時間耐久ロードレースのメカニックとして参戦もしている。Webサイト「カーライフサポートネット」では、自動車の維持費削減を目標にしたメールマガジン「マイカーを持つ人におくる、☆脱しろうと☆ のススメ」との連動により、自動車の基礎知識やメンテナンス方法などを幅広く公開している。
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