タミヤの「ミニ四駆」とパーソナルファブリケーション技術を融合させたカスタマイズレース「Fabミニ四駆カップ 2015 Spring」の会場で、ひときわ異彩を放っていた「THE HAND」。走りながら指をカタカタと動かすマシンを作ったのは、多摩地域を拠点に活動するモノづくり軍団(ウォリアーズ)、ネクスメディアとギフトテンインダストリの混成チームだった。
今、タミヤの「ミニ四駆」が第3次ブームを迎えている。
ミニ四駆は車種やシャーシのバリエーションと豊富なカスタムパーツ(グレードアップパーツ)がウリで、その組み合わせにより、自分だけのオリジナルマシンを組み上げることができる。ミニ四駆自体は非常にシンプルな構成ながら、高速モーターや中空ゴムタイヤ、ベアリング、繊維強化プラスチック(FRP)を使ったプレートなど本格的なパーツもそろっている。クルマ好き、バイク好きと同じような感覚で、“いじる喜び”が小さなミニ四駆の中に詰まっているのだ。
そんな“いじれる”ミニ四駆と、パーソナルファブリケーション技術を融合させたカスタマイズレース「Fabミニ四駆カップ」をご存じだろうか。
MONOist編集部でも前回開催された「Fabミニ四駆カップ 2015 Spring」(会期:2015年4月29日)に初めて取材に行き、「個人あるいは少人数チームで、ここまでできるのか!」と本当に驚かされた。3Dプリンタでボディを出力するのは当たり前、中にはレーザーカッターを駆使してMDF(繊維板)の味のあるマシンを製作したチームもあった。市販パーツでは飽きたらず、高価な特注パーツで自らの存在を主張する実車のカスタムカーのごとく、個性あふれる外装をまとったミニ四駆マシンの数々。そんな中で、ひときわ異彩を放っていたのが今回紹介する「THE HAND」だ。
THE HANDはその名の通り、人間の「手」をモチーフにしたミニ四駆。製作したのはネクスメディアとギフトテンインダストリの混成チームだ。その見た目はもちろんのこと、指をカタカタとさせながら猛スピードで走る様子はFabミニ四駆カップの見学者だけでなく、ライバルである出場者の注目の的となった。
「なぜ、こんな個性的なマシンを作ったのだろうか」「なぜ、手なのだろうか」「仕組みはどうなっているのだろうか」「そもそもどんな会社なのだろうか」――。今回、機会を得て東京都東大和市にあるネクスメディアのオフィスにお邪魔させていただき、開発メンバーに話を聞いた。
THE HANDの開発メンバーは、ネクスメディアの有山泰央氏、小堀裕基氏、田中里絵氏と、ギフトテンインダストリの佐藤仁氏の4人。
ネクスメディアは、印刷物の制作で培った情報加工技術を生かして顧客の販売促進を支援するニシカワ(東京都東大和市)のグループ企業として、2014年11月に設立された新しい会社だ。彼らのミッションは大きく「販売促進支援」「ものづくり支援」「地域コミュニティー支援」の3つに分類され、これら事業を複合的に推進していくことで、多摩地域のさらなる活性化を目指している。このうちの1つ、ものづくり支援事業において、ネクスメディアでは3Dモデリング、3Dプリント、3Dスキャンなどのサービス提供を行っている。
また、地域コミュニティー支援事業の一環として、「モノ、コトづくり」にフォーカスした情報サイト「monofarmウェブマガジン」の運営も行っており、多摩地域のモノづくり企業などへの取材活動を、ものづくり支援事業へとつなげている。「THE HANDの開発チームの1つ、ギフトテンインダストリとの出会いもmonofarmウェブマガジンの取材がきっかけだった」と有山氏は語る。
同じく多摩地域に拠点を置くギフトテンインダストリ(東京都国分寺市)は、異なる業界出身のデザイナー3人が2014年10月に立ち上げた会社だ。大企業の場合、製品アイデアが良くても、出荷ボリュームが見込めないとモノを作れない・製品化できないケースがよくある。そうした現実に対し、彼らは小ロットでも人が喜ぶような温かい製品やサービスを提供したいと考え、“社会的マイノリティー”に向けたモノづくりを目指している。製品化第1弾として、視覚障害者と健常者がハンデなしで対等に遊べる音を使ったボードゲーム「アラビアの壺(つぼ)」を開発するとともに、障害者支援活動なども積極的に行っている。「私たちは、1点モノと大量生産の間を埋める小ロットのモノづくりを目指している会社だ」とギフトテンインダストリでプロダクトデザインを担当する佐藤氏。
地域コミュニティー支援事業の一環として展開するmonofarmウェブマガジンがハブとなり、ネクスメディアとギフトテンインダストリを引き合わせ、両社の親交が深まっていったという。「同じ多摩地域で、設立も同じくらいのタイミングだったので、一緒に何かできたらいいねという思いがあった。通常業務での仕事のやりとりはあったが、それだけでは何も新しいものは生まれてこないと感じていた矢先に、Fabミニ四駆カップの存在を知った」(有山氏)。
彼らがFabミニ四駆カップの存在を知り、出場しようと決めたのが、開催約1カ月前のこと。「普段から面白そうなイベントなどをメンバーと共有するようにしていたが、Fabミニ四駆カップについては直前まで知らなかった。正直間に合うか不安もあったが、やろうと決めてすぐに近所のショッピングセンターにベースとなるミニ四駆を買いに行った」と有山氏は振り返る。
大会まで約1カ月。開発メンバーである4人が集まり、まず行ったのがミニ四駆マシンのデザインコンセプト決めだ。期間的に考えて、フルカスタムで出場する「マジFABクラス」は諦め、最低どこか1箇所をファブツールでカスタムすれば出場できる「カルFabクラス」をターゲットとし、デザイン検討を行った。その際、過去の大会リポート記事などを読みあさり、「(機構的に)動きのあるもの」「3Dスキャナを使ったもの」を柱に、アイデアを出し合ったのだという。
「最終的にキモさと面白さを両立させようと、生っぽくて動きがあるものに絞った。映画『エクソシスト』からヒントを得て、ブリッジ姿勢で歩く人をモチーフにしようという意見もあったが、ミニ四駆は高速で走るので見た目も単純な方がいいだろうとなり、またもや映画『アダムス・ファミリー』からヒントを得て、『ハンド(英語版ではThe Thing)』をボディにしようと決めた」(佐藤氏)。
その後、ネクスメディアが手をモチーフにしたボディを、ギフトテンインダストリが機構部分(一部シャーシも含む)を担当し、それぞれ並行して設計作業が進められた。
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