彼らのマシンTHE HANDは、市販のミニ四駆のMSシャーシ(一部パーツはオリジナルで製作)と、手をモチーフにしたボディで構成され、カタカタと動く4本の指は、ボディ側に設置されたカム機構により上下に動く。
「カムを動作させるために、わざわざモーターを新設するのは大掛かりになると判断し、ミニ四駆のギアカバーの一部をカットして走行用モーターから動力をもらうことにした。前輪側のギアから動力を取り、その動力をボディ側に配した複数の減速用ギアでスピードを落としていきカムを動かしている」と機構周りの設計を行った佐藤氏は説明する。
同時に、手(ボディ)部分をシャーシに取り付けるために、ボディ側のフレームパーツとMSシャーシの前輪側のジョイントパーツをオリジナルで設計。「市販品に取り付けるため、3次元CADで設計を始める前に、ノギスでシャーシのいろいろな箇所を測った。3Dプリントしたものを一部手加工で修正したが、ボディとシャーシのずれはほとんどなかった」(佐藤氏)。ちなみに、佐藤氏は普段から使い慣れているミッドレンジの3次元CAD「SOLIDWORKS」を利用して設計作業を進めたという。
⇒3Dデータ公開中:ミニ四駆『THE HAND』シャーシ部品
佐藤氏の作業と並行して、ネクスメディアではボディ側のデータ作成が進められた。「まず、ハンディタイプの3Dスキャナ『Artec Eva』(アーテック製)で、田中さんの右手をスキャンして、クレイモデラー『Freeform』(Geomagic製)でスキャンしたままの状態から指の位置や手の甲の高さなどを修正して、肉抜きなどを行った。それをFreeformのオートサーフェス機能を用いて、CADデータに変換してからSOLIDWORKS側に持っていった」とボディ部分のデータ加工を行った小堀氏は語る。
また、Fabミニ四駆カップで決められている車両サイズ規定や、佐藤氏が担当するシャーシ側との干渉具合のチェックを行い、何度かデータの微調整も行われたという。「可動部の指の分割については、ボディとシャーシがきちんと収まり、ぶつからないということを、ある程度確認できた段階で行った」と小堀氏。
指を動かす機構を含めた手のボディと、オリジナル設計したフレームパーツおよびシャーシの前輪部分のジョイントパーツの3Dデータが完成したところで、3Dプリンタの出番だ。使用したのはネクスメディアが所有する3Dシステムズ製ハイエンド3Dプリンタ「ProJet 3500 HD Max」と「ProJet 4500」だ。
ボディ側のフレームパーツとシャーシの前輪部分のジョイントパーツに関しては、アクリル樹脂で高精細に造形できるProJet 3500 HD Maxを用いた。ボディに関しては、丈夫な樹脂でカラー出力できるProJet 4500を利用。「データ上は多分行けるだろうと思っていても、実際に3Dプリンタでモノにしてみると干渉する部分が見つかってしまった。そうした部分に関しては、再度SOLIDWORKSで修正を掛けたり、手加工で微調整したりして対応した」と佐藤氏。また、手の色に関しても、スキャンした状態のテクスチャだと影の部分もそのまま取り込まれているため、Freeformなどで色の調整も行ったのだという。
3Dプリンタによる出力は2回だけ行われた。1回目は全体の形状や干渉のチェック、可動部分の動きの確認などを行うためのプロトタイプとして出力。2回目は、前述の3Dデータ上の微調整・色の調整などを行ったものを用いた本番用として出力した。
その後、「よりエレガントな手に見えるように、マニキュアやブレスレットなどで装飾を施した」(田中氏)のだという。ちなみに、手のモデルになった田中氏は、普段の業務スキルを活用して、Fabミニ四駆カップの会場でTHE HANDをアピールするためのパネルデザイン&制作も担当し、開発チームに貢献した。
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