図4は比例動作の定数kpを、図5は微分動作の定数kdを、また、図6は積分動作の定数kiをそれぞれ、0〜20に変化させた場合の変位プロフィールを描いたものです。
図4を見ると、kpが大きくなると、0から立ち上がる曲線の傾きが大きくなっていることが分かります。すなわち、比例動作は目標への収束を早めるように働きます。ただし、図4右側のkp=20を見ると、後半での収束が遅くなっているように、大きすぎる比例動作定数kpは目標値付近での収束を遅くさせます。
図5は、微分動作の定数kdの影響を示したものです。
図の左側のkd=0と中央のkd=10のケースを比べると分かるように、微分動作は変動を抑えるように働きます。ただし、図5右側のkp=20を見ると、傾きが小さくなっていること、オーバーシュートを起こしていることから、大きすぎる微分動作定数kdは収束を遅くさせることと、オーバーシュートを起こします。
図6は、積分動作の定数kiの影響を示したものです。
図の左側のki=0と中央のki=10のケースから分かるように、積分動作がないと、ki=0の例のように、目標値からずれたままとなります(オフセット)。これを補正するのが、積分動作の働きです。ただし、図6右側のki=20から分かるように、大きすぎる積分動作定数kiはオーバーシュートを起こします。
PIDコントローラーは、微分動作で変動を抑えつつ、比例動作で速やかに目標に近づけて、最終的に積分動作でオフセットをなくすように働きます。
今回の例のように、数式モデルを使い、システムの挙動を各種の設計変数で試しながら、設計する手法はMBD(Model Based Design)と呼ばれ、近年急速に普及しています。すると、コンピュータが使えなかった時代ならいざしらず、モデルさえあれば、制御工学など知らなくとも、優れた製品を設計できるのでは?という考え方もあるかと思います。
しかしながら、現実の設計は、今回の例のように簡単なものではなく、数式モデルは膨大な結果を返してきます。このとき、いきあたりばったりでは、膨大なデータを前に、迷路に迷い込むことになります。つまり、制御工学は、現実の複雑なモデルから本質を見つけ出し、解決の見通しを立てるためには不可欠なものです。そのための道具が、伝達関数やブロック線図であり、安定性や過渡応答といった評価基準です。
次回から、モデル化、伝達関数、ブロック線図について、今回使用した数式モデルを基に説明していきます。
伊藤孝宏(いとう・たかひろ)
1960年生。小型モーターメーカーのエンジニア。博士(工学)。専門は流体工学、音・振動工学。現在は、LabVIEWを使って、音不良の計測・診断ソフト、特性自動検査装置などの開発を行っている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.