経済学者マイケル・ポーター氏と米国PTCの社長兼CEOであるジェームズ・ヘプルマン氏の共著であるIoTに関する論文「IoT時代の競争戦略」が公開。その内容を解説する本稿だが中編では、IoTとスマートコネクテッドプロダクトにより業界構造がどう変わるかを紹介する。
ハーバードビジネススクール教授で、「競争の戦略」や「5つの力」などの著書を持つ経済学者マイケル・E・ポーター(Michael E. Porter)氏の、IoT(Internet of Things、モノのインターネット)に関する最新論文「IoT時代の競争戦略(How Smart Connected Products Are Transforming Competition)」が公開された。共著は米国PTCの社長兼CEOであるジェームス・E・ヘプルマン(James E. Heppelmann)氏である。IoTを取り巻く企業の環境の変化をまとめた同論文の内容を解説する勉強会をPTCジャパンが開催した。
本稿では3回に分けてその内容を紹介している。前編の「製造業に襲い掛かる第3次IT革命の波」ではIoTおよびスマートコネクテッドデバイス(接続機能を持つスマート製品)とはどういうもので具体的にどういう機能を保有するようになるのかを紹介したが、中編では「これらの変化が業界構造をどう変えるのか」について解説する。
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スマートコネクテッドデバイスによってもたらされる変化が企業の経営にとってどのような影響を与えるのかという点については、業界構造がどう変化するのかという点を見なければならなくなる。ポーター氏は著作「競争の戦略」の中で、企業間の競争のルールとなる“5つの競争要因(Five Forces)”を紹介しているが、IoTおよびスマートコネクテッドデバイスにおいても「買い手の交渉力」「既存企業同士競争」「新規参入者の脅威」「代替品や代替サービスの脅威」「サプライヤの交渉力」の5つの切り口で考えることで状況が読み解けるとしている(図1)。
スマートコネクテッドプロダクトにより、製品の実際の使われ方が把握できるようになると、顧客のセグメンテーションや最適な製品設計、価格設定が行えるようになり、より顧客のニーズに合致した付加価値製品およびサービスを提供しやすくなる。またサービス提供者側と顧客側に継続的な関係性が生まれるために、買い手(顧客)が新たなサービス提供者に乗り換えるコストが上昇する。一方で、従来サービス提供者と買い手の間を結ぶ存在であった流通業や卸業などを“中抜き”できるようになり、収益性を確保しやすくなる可能性がある。これらのことから、メーカーやサービス提供者は買い手の交渉力をかわしやすくなるといえるかもしれない。
例えば、GEの航空事業部門は、航空機エンジンに多くのセンサーと接続機能を搭載したことでスマートコネクテッドプロダクトとしている。そしてこれらから得られたデータを基に、航空キャリアと直接契約し最適な運航を指導するサービスなどを提供している。実際にイタリアのアリタリア航空ではGEと契約し燃料使用データの分析結果を基に操縦プロセスの変更を行ったことで燃料使用量を減らすことに成功したという。航空機エンジンは従来は航空機メーカーとの関係性が中心だったが、スマートコネクテッドプロダクトにより航空機キャリアと直接関係を作ることで、航空機メーカーに対しても強い立場を取れるようになる。
ただ逆に、業界によっては、製品の機能や使い方などを買い手が理解しやすくなることで、買い手の交渉力を高める可能性があるので注意が必要になる。また売り切りの製品として販売するのではなくサービスとして提供する「製品のサービス化(サービタイゼーション)」などの場合では、乗り換えが容易になるため、買い手の交渉力が高まる場合もある(関連記事:製造業は「価値」を提供するが、それが「モノ」である必要はない)。
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