IoTで“5つの競争要因”はどう変わるのかマイケル・ポーターの「IoT時代の競争戦略」(中編)(2/3 ページ)

» 2015年04月16日 11時00分 公開
[三島一孝MONOist]

既存企業同士の競争

 スマートコネクテッドプロダクトは、差別化や付加価値サービスの新たな方法をもたらすため、既存企業同士の競争関係も変える可能性がある。製品そのものではなくデータの提供やサービスの拡充などにより従来競争ポイントとしてきたところが、それぞれで異なってくるかもしれないからだ。

 例えば、テニスラケットメーカーであるフランスのバボラは、グリップ部分にセンサーと通信機能を内蔵した新製品「Play ピュア ドライブ」という製品を発売した。これは、センサーによりボールの速度やスピン、インパクトエリアなどのテニスのプレイの内容をスマートフォン向けのアプリで把握・分析できるというものだ。従来のラケットの品質や価格に加えて、新たなデータサービスという競争軸が生まれることになる。

新規参入者の脅威

 スマートコネクテッドプロダクトを展開するには、複雑な製品設計や組み込みソフトウェアの開発技術、ITインフラに必要な費用など、高い障壁があり、新規参入は容易ではないといえる。特に同領域で展開している企業が早期に製品のスマートコネクテッドデバイス化を図り、それに伴う新たな付加価値サービスを展開し先行者利益を得ている場合、乗り換えコストが高まるためにそれを突き崩すのは難しい状況となる。

 一方で、接続機能により、既存企業の強みや資産を無効にできるような場合には、新規参入しやすく、さらにその中で成功する可能性があるといえるだろう。既存企業はハードウェアに依存する強みや従来の収益モデル、サービス事業を守りたいがためにスマートコネクテッドプロダクトに取り組むのに二の足を踏む可能性がある。そこは新規参入者がつけ入るすきとなる。

photo 図2:スマートコネクテッドプロダクトがもたらす事業領域の変遷(クリックで拡大)※出典:PTCジャパン

代替品や代替サービスの脅威

 スマートコネクテッドプロダクトには、従来の代替品に比べ性能やカスタマイズの機会を生むことで代替品や代替サービスの脅威を低減させる力がある。しかし一方で、旧来製品の機能や性能を取り込むことで新たなタイプの“代替の脅威”を生んでいる。

 例えば、ウェアラブル型フィットネス機器であるFitbitは、活動量や睡眠パターンなどの健康関連データを記録できることから、ランニングウォッチや歩数計など既存製品を代替する役割を果たしてしまう。また、「製品のサービス化」により、「所有する」ということを「共有する」ということで代替するという可能性も生んでいる。例えば必要な時に必要な場所ですぐに自動車を利用できるカーシェアリングサービスの米国zipcarは、ある意味では自動車メーカー各社の提供する自動車を代替しているといえる。

サプライヤの交渉力

 スマートコネクテッドプロダクトはサプライヤとの関係性を大きく変える可能性がある。製品の構成要素の中で、物理的なものよりもスマート部品や接続機能の価値が大きくなり、ソフトウェアに代替されるものが増える。その意味では従来のサプライヤーの交渉力は低下するといえるだろう。

 しかし、一方で「接続」をベースとしたスマートコネクテッドプロダクトは、「接続部分」については、企業ごとであるよりも業界ごとで統一・標準化された方が望ましいため、従来存在し得なかったメガサプライヤーが登場する可能性も生んでいる。

 1つの例がオープンオートモーティブアライアンス(OAA)だ(関連記事:車載Android推進団体OAAの参加規模が6倍に、2014年末に「Android Auto」も登場)。OAAは自動車へのAndroidプラットフォーム搭載を推進する団体で、自動車メーカーからは、Bentley Motors(ベントレー)、FIAT Chrysler Automobiles(フィアット クライスラー)、Ford Motor(フォード)、マツダ、三菱自動車、日産自動車、Renault(ルノー)、富士重工業、スズキ、Volkswagen(フォルクスワーゲン)、Volvo Cars(ボルボ)などが参加している。もし、Androidがこのまま普及したとすれば、Googleの交渉力を無視できなくなるだろう。

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