白崎氏に実験の合間にお話を伺ったところ、「エンジニアは実体験(仕事)として解析を行っているので『実際に皆さんもこのようにされると思いますが、なんとなくこうしていますよね。でも本当はその裏にこういう原理があるんですよ』といった説明ができる。同じことを教えても、エンジニアと学生それぞれで考え方が違い、質問も異なるので、CAEユニバーシティの講座と大学の授業で、相互に良いフィードバックができる」とおっしゃっていた。将来は、今日のような純粋な実験だけでなく、(計算時間がかかるので簡単にはできないが)CFDとつながりを持たせた講座にしたいとのことだ。
後日、この講座に対する受講者からの感想を見せてもらったが「抗力に対する考え方やイメージがつかめた。単純な形状で抗力を測るような単純な実験でも結果がとても繊細で流体の難しさを実感した」、「流体力学の理解が前進した。先生の最後に説明された考察がさらに流体力学の理解につながった」などかなり好評だったようだ。
実は流体力学実験室の開催は今回が初めてとなる。講師と事務局で何回もの打ち合わせを繰り返し、試験的な講座を開催してフィードバックを得て内容を修正するなど、開催までには何カ月もの準備期間を経ている。講座1つをとっても非常に手間がかかっていることが分かる。
このような労力をかけて実施しているCAEユニバーシティが目指すものは何かを、CAEユニバーシティを統括する、同社 CAEユニバーシティ室の櫻井孝室長に聞いた。
櫻井氏はCAEという言葉があまり聞かれなかった30年以上前から、サイバネットに入社するまで、いくつかの会社を移りながら、設計者、解析者、実験担当、CAEソフトウェアベンダーと、CAEについて立場の異なる全方向から見てきたという貴重な経験の持ち主だ。その長い経験の中で櫻井氏が感じていたのは、「CAEは設計のツール」と言われる割に、解析者向けのCAEソフトの使い方(操作法)の教育はあるものの、「設計者がCAEを設計のためにどう使いこなせばよいか」という教育はないということだ。
その後サイバネットに入社した櫻井氏だが、2010年にCAEユニバーシティを担当することになった。それまでのCAEユニバーシティは、専門家のためのアカデミックな専門教育というイメージだったが、櫻井氏はこれを変えた。
「まず設計者が“何がしたい”というのが先にあって、そのために設計的に何が必要で何を満足すればよいかを決める。そこから逆に、『こういう答えを出すためにはこういう条件が必要で、こういうモデリングが必要ですね』ということを考えさせるようなセミナーを作りたかった」(櫻井氏)。
実験室を増やしているのも、普段設計者が実験すると解析結果と比較するので、実験のことも分かっていなくてはいけないし、「なぜそうしたか」という設計の趣旨も理解する必要があるということを、関連づけて理解させることを狙ってのことだ。
設計エンジニアが実務と関連づけて学べる、という点は現在のCAEユニバーシティが気を配っているところだ。学会や大学の先生のセミナーに行くとその分野の理論的なことは聞けるが、日々の実務や実験とどう関係づけるのか分からないという問題があった。CAEユニバーシティの講座それぞれは単発だが、講師同士でのミーティングを設けて、ある講座で足りない部分は別の講座で補うようにしており、講座同士が結びついて体系的に学ぶことができるのだ。さらに、設計者には設計者が分かりやすい言葉、解析者には解析者が分かりやすい言葉があるので、受講者が理解しやすいようエンジニアOBを講師に起用したりもしている。
最後にCAEユニバーシティの今後の計画について聞いたところ、実験室とe-CAEユニバーシティをさらに拡充するという。実験室では、流体力学に続いて伝熱や制御を増やす他、信号処理は内容をリニューアルする予定だ。
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