工藤氏は、同氏が携わった医療分野におけるデータ活用の事例として、米国のニューヨーク市で行ったPrimary Care Information Project(PCIP)を紹介した。米国の医療保険に関する構造は日本と異なり、民間保険に加入する個人や雇用主に対して、必要な場合に医療費が給付されるというのが一般的だ。個人で保険に加入できない貧困層などに対しては、メディケアと呼ばれる公的医療制度が用意されている。しかし、貧困層は罹患しても病院に行かず、最終的に重症患者となってから治療を受ける場合が多く、最終的に社会保障費を圧迫する要因になっていることが問題視されている。
こうした医療費問題の解決に向けて行われたのがPCIPだ。これは診断予約管理や検査結果の連携、処方せん、診療報酬や請求コードまでを全て電子化し、1つのクラウドコンピューティング上で管理して、ニューヨーク市の病院に提供するというプロジェクトだ。2013年2月の時点で、ニューヨーク市内の約300万人の患者情報を収集し、さらに専門の分析チームが収集したデータを分析することで、約20万人の生活習慣病患者に適切なプロセスで治療を行ったという。
今後大きな病気にかかる可能性がある生活習慣病患者を治療することは、結果的に医療費の削減にもつながる。PCIPを行った結果、総額で1億米ドル以上の医療費削減効果があったという。さらに工藤氏は、「PCIPで収集した診断情報を基に、インフルエンザなどの感染症の流行度を分析し、教育機関に休校を指示するといった直接的な医療費の削減以外にも波及効果があった」と説明した。
工藤氏はデジタル化が進む医療分野の今後について、「今までは、自覚症状が出てから病院に行って検査と治療を受けるというのが普通だった。しかしスマートフォンのさらなる進化やウェアラブルデバイスの普及によって、自分で生活習慣の見直しなどが可能になることで、四大疾病(がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病)などを未然に防ぐことが容易になるのではないか。そして、それが医療費の削減にもつながると考えている」と語った。
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