カジミツのコマの形状は高さ6cm、直径2cmの円筒形で、タングステン製の外側の円筒で重量を確保している。総重量190.1gで、「天下布武」という名前だ。接地面とゆっくり回転していた外側の円筒はベアリングを介しており、直接は連結されていない。そのため円筒の動きは、内部の回転に引っぱられたり相手のコマの影響を受けたりと一定しない。
内部は電池とモーター、モーターの入ったパイプ、パイプと連結された接地面の皿が収められている。モーターの軸にはおもりがついており、おもりが回るとその振動によって、モーター軸と直接は接続されていないパイプが回転する。それと同時に接地面も回転するという仕組みだ。
モーターが回っているためジャイロ効果を利用していると思われがちだが、このコマはモーターが止まっても倒れない。接地面が土俵のRに近い曲面を持っているからだ。それでも回している理由は「ルール上、接地面が回っていないと負け」(松宮氏)だからである。また「片方の手だけで回すこと」というルールを満たすために、投げる時に手で円筒を回している。モーターと接地面が直接つながっていないのは、同じく上記ルールの解釈により、モーターを内蔵するコマは、モーターで直接接地面を回してはいけないことが暗黙の了解事項になっているからだという。まさに「前代未聞のコマだった。そしてルールを本当にすれすれのラインでクリアしていた」と落守伊之助行司は振り返る。
第1回戦の後、会場のどよめきを受けて、濱垣スポンジ之助行司からの「ルールには抵触していない。このコマが負けるのは、倒すか電池が切れて接地面が止まるかのどちらか」と解説が入った。
2回戦でカジミツと戦ったのは、「古川電機製作所 岐阜工場」(岐阜県海津市)。同社のコマは、重量の大きい低重心のコマだった。
1戦目は「できるだけ長く回す」作戦で投げたが、先に止まってしまった。そこで2回目は逆さ投げで重心を上げ、激しく体当たりしたところ、カジミツのコマを倒すことに成功。その日の中でもひときわ大きな歓声があがった。だが「投げられることができても、当てるのが難しい。勇気がいる」(解説の由紀精密 大坪正人氏)というように2度は続かなかった。
古川電機製作所の森島良友氏は「予想もしないコマだった。突起系や開き系などのコマに対する作戦も準備していたのに、それらを使うことなく負けてしまった。(カジミツのコマに)当たらなければ確実に優勝していると思う。それだけのコマだった」と本当に悔しそうだった。
その後の準々決勝、準決勝では相手チームが何とかしてカジミツのコマに体当たりしようとしたものの、あと一歩及ばなかった。準々決勝では「久野金属工業常滑工場」(愛知県)が可能な限り時間を稼ぎつつ(掛け声の後30秒以内に投げなければいけないというルールを利用)思い切りぶつけるという作戦で粘ったが、最終的に敗退してしまった。準決勝では「岩沼精工」(宮城県)が突起を付けて攻撃性を高めた重量コマをぶつけに行ったが残念ながらうまくいかず、カジミツが決勝へと歩を進めることになった。
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