“生命感をカタチにする、「魂動」。生物が目標に向かって動き出す一瞬の強さや美しさ。それがマツダの考える究極のMotion Formです。クルマをただの鉄の塊ではなく、まるで生き物のように生命感を感じさせるものにしたい。まるで意志を持って動き出しそうな緊張感と、体温を持ち呼吸しているかのような温かみをもった、生きたクルマをつくる。それが「魂動」デザインです。”
マツダのWebサイトでは魂動デザインについてこのように表現されている。以前よりマツダでは「zoom-zoom」というブランドメッセージで、走る歓びを提供価値として訴求してきているので、「動き」をデザインテーマに据えているのは自然な流れに感じる。
今回は魂動デザインや、そこに至るまでのストーリーなどを、大幅改良を図ったCX-5とアテンザ両方のチーフデザイナーを務めた玉谷聡氏に話を聞いた。
玉谷氏によると、魂動デザインに取り込もうとしているのは、動物など生き物が瞬発力やスピード感ある動きの中で見せる、一瞬の美しさや力強さであるという。端的にいうと「生命感のあるフォルム」だろうか。中でも玉谷氏の意識に強くあるのはチーターだそうだ。それも単独で狩りをする雌のチーターの走りや獲物を狙うときの身体の造形だという。
魂動デザイン以降のマツダ車はいずれも、ウェッジ角度強めの前傾姿勢と、しっかりと地面をつかむ脚のように四隅に近いところに配置されたタイヤで前進感を強調するプロポーションとなっている。さらに大径ホイールとそれを強調するフェンダーの張り出しにより、キャビンを視覚的にコンパクトに見せ、動きの力強さを期待させるものとなっている。
玉谷氏からは、ボディのキャラクターラインやドア断面をリヤタイヤ側に力点があるように見せるものとすること、キャビンを気持ち後ろ寄りとすることで、チーターが後ろ脚で蹴り出すような動感を表現しているといった解説もなされた。加えて、「シグネチャーウイング」とマツダが呼ぶ金属調のモールを備える立体的な多角形フロントグリルと、こちらも捕食動物の眼をイメージしたようなヘッドランプを配したファミリーフェイスも魂動デザインのアイコンとなっている。ファミリーフェイスを使うというのは新しい手法ではないが、ブランド全体に一貫性がある考え方が反映されているというイメージを持たせるには有効な手法である。
CX-5から始まった魂動デザイン、特にアテンザの予告でもあった2011年のコンセプトカー「雄(TAKERI)」を見た際に、「CX-5やアテンザのようなボディサイズのあるモデルはともかく、今後デミオのような小さいクルマにもこのテーマでいくのだろうか?」と感じたことを覚えている。
しかし結果は、短い全長であるが故に、前後方向の伸びやかさ表現の造形が難しいデミオにも、上手く魂動デザインの要素が盛り込まれている。玉谷氏との話の中でも思ったことだが、これは魂動デザインで使われている造形手法が、ある立体形状に異なる形の立体形状を加えながら作り上げていく「足し算の形」ではなく、1つの固まりから削り出すような「引き算の形」であることもポイントであるように思う。
魂動デザインの今後ということについて玉谷氏は、マツダデザインとしての公式見解ではないと前置きしつつも、「今後も足し算の造形になるのではなく、より研ぎ澄ませながら進化・深化をさせていくことになるのではないか」と語っていた。
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