日本の製造業が置かれた状況について、経済産業省「ものづくり白書」の最新版(2014年版)を基に論じる本稿。今回は、その後編として、日本の製造業が国際競争力を維持・強化するための施策について、ものづくり白書を基に考えていく。ポイントは、デジタルテクノロジーの革新が、日本の製造業に利するかどうかだ。
経済産業省が毎年発刊している「ものづくり白書」の2014年版を基に、日本の製造業の現状と課題を探る本連載。前編「国力低下が製造業の土台を揺るがす!? ――日の丸製造業の現在地」では、製造業を取り巻く状況の変化と、製造基盤としての日本の位置付けについて紹介した。後編では、デジタル技術の革新により、日本の製造業はどういう変化に直面しており、どういうことに取り組むべきなのか、ということを見ていこう。
以前、韓国サムスン電子で役員をしていた人からこんな話を聞いたことがある。
「サムスンは当初、日本の家電製品の仕上がりの良さをまねしようと必死になっていた。ところが、いくらチャレンジしてもまねできない。そこで“日本品質”を追求するのを諦め、逆に“日本品質”を否定することに取り組んだ。モジュール化や汎用部品の活用、モノづくりのデジタル化を推し進め、製造の徹底した合理化とそれによる製品の低価格化、そしてマーケティングで勝負するという戦法に切り替えたのだ。各国・各地域の消費者が求める製品を効率的、かつ安価に、しかも一定の品質で出すことができれば、日本に勝てると踏んだのだ。その戦略が結果的に奏功し、世界の市場で日本の家電製品を駆逐していった」。
この言葉のポイントは、大きく2つに分けることができる。
1つは、高品質な製品を作ることに関して、日本のメーカーおよび日本人は、世界で飛び抜けた力量・才能を持っていた(恐らく今も)。もう1つのポイントは、そうした「強み」が市場で機能しなくなる(あるいは、価値を低下させる)と、製品の競争力は失われ、打開策もなかなか見つけられなくなるということである。つまり唯一無二の戦略が「高品質のモノづくり」で、他の引き出しがない状況というわけだ。
日本の製造業の現状を見てみると、実際に国際競争力を大きく減退させたのは、テクノロジーのコモディティ化が進んだエレクトロニクス/家電系の製品に限定されている。とはいえ、技術革新によって、日本メーカーの強みが失われる事態はあらゆる領域で起こり得る。また、市場での強者・ライバルを打ち負かす鉄則は「相手の強みを無力化すること」とされており、日本企業の競争相手は、技術革新の行方を追いながら、常に先行者の強みを無力化する機を伺っている。
そうした状況下で、日本の製造業はどのような形で国際競争力あるいは「稼ぐ力」を増やそうとしているのか――。「2014年版ものづくり白書(ものづくり基盤技術振興基本法第8条に基づく年次報告)」を基に、主な動向を追ってみたい。
ものづくり白書では、国内製造業の「稼ぐ力」を増すための動きとして、「モジュール化」を注目すべき技術動向の1つに挙げている。モジュール化とは、標準化された要素(モジュール)を組み合わせて最終製品を組み立てる設計・製造の方式だ。先述したサムスンの元役員も、このモジュール化を強く提唱してきた一人だ。同氏はモジュール化を称して「モノづくりのデジタル化」と呼んでいた。
この手法の根本となる考え方は、ソフトウェアのオブジェクト指向開発と同じで、複数製品間でのモジュールの共用化により、設計・生産の効率化を促進するというものだ。例えば、自動車のエンジンにしても、排気量ごとに異なるエンジンを作るのではなく、ベースのエンジンにアドオンモジュールを付加し、パワーを段階的に高めていくというものだ。このアーキテクチャを採用すると、特定機能の追加・変更の影響範囲を最小化させ、多モデル化のコストが抑えられるようになる。ものづくり白書が指摘するモジュール化の主なメリットは下記の通りだ。
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