デジタル技術は日本の製造業に何をもたらしたか?ものづくり白書2014を読み解く(後編)(4/5 ページ)

» 2014年11月25日 09時00分 公開
[田橋風太郎MONOist]

まだまだ足りないITの戦略的活用

 もう1つ、ものづくり白書が、「海外と比した、日本の製造業の立ち遅れ」を指摘する部分が、「情報化」――つまりは、「ITの戦略活用」である。ものづくり白書では、日本の企業のIT投資は、「守りの投資に終始」し、「攻め」のスタンスに欠けると批判する(図9)。

 また、ものづくり白書では、IT投資に対する経営層の意識についても、日米で格差があり、米国の場合は、「製品・サービス開発の強化」「ITを利用したビジネスモデル改革」をIT投資用途の最上位に置いているのに対して、日本では「業務効率化/コスト削減」がトップであるとし、IT活用によってビジネスそのものを強化する発想になっていないことが分かる(図10)。

photophoto 図9:ITがこれまでもたらした効果の日米比較(左)、図10:IT予算を増額する企業における増額予算の用途の日米比較(右)(出典:電子情報技術産業協会)(クリックで拡大)

 ちなみに、総務省の「平成26年版 情報通信白書」のデータを見ても、米国などに比べて、日本のIT(ICT)投資に対する積極性は低いようだ(図11)。

photo 図11:設備投資全体に占めるICT投資の割合(出典:総務省「ICTによる経済成長加速に向けた課題と解決方法に関する調査研究」)(クリックで拡大)

 経営・ビジネスにITを生かす必要性は、これまでもさまざまに唱えられてきた。また、米国でCIO(情報最高責任者)というポジションの必要性が論じられ始めたのは、30年近くも前のことだ。欧米では既に、経営・ビジネスにITを生かすのは当然で、その必要性が議論されることすらなくなっている。また、技術革新への対応が、欧米CEOの最大の関心事ともされている。その中で、IT化に対する日本のメーカーの経営者の依然意識が低いとすれば確かに問題かもしれない。

 もっとも、ITは米国主導のもので、ハードウェアの要素技術からソフトウェア、さらにはコンセプト(例えば、ERP、SCM、グループウェア、ナレッジマネジメント、ビッグデータ、クラウド、などほぼ全て)は、ほとんどが米国で生まれたものだ。そのため、根底には米国式、あるいは欧米式の考え方が流れており、全てが日本企業にとって有益で使い勝手の良いものであるとは限らない。

 例えば、ERP製品にしても、日本特有、あるいは個々の企業固有の組織・業務プロセスに配慮した仕組みではなく、それを取り入れる際には、多くの出費を覚悟でカスタマイズを行うか、あるいは、製品に自社の組織・業務プロセスを適用させるかしない。最近でこそテンプレートなどで対応が進んでいるが、SCMも日本の製造に合ったものは当初はなかなか存在しなかった。もともと人と人との意思疎通がうまく図れていた日本の組織にとっては「どう使えば利が得られるのか」と扱いに困るシステムもあった。

 加えて、ITには、情報や業務の流れの標準化を支援する、または業務の標準化をセットで行わないと効力を発揮しないという側面がある。そのため、属人的なスキルや能力に依った業務の回し方、情報共有を是とし、それを強みとしてきた組織にとってはなかなか受け入れ難い場合もあった。

ITをより有効な形で差別化に使う

 しかし、そもそも製造は、設計情報を起点に回る情報化の仕組みそのものであり、製造の先鋭化はIT活用の先鋭化に他ならない。また、ITによって効率化・自動化されたプロセスに、人の力で対抗していくことは難しく、情報を分析するにしても、ITならば、人には到底扱えない量のデータを一挙に処理し、分析することができる。しかも、学習能力を持つITは猛烈な勢いで進歩している。クラウドコンピューティングの発達により、資金(初期投資の資金)がなくとも、IT革新の利を享受できる可能性が広がっており、結果、新興の勢力がITによる大きな変革を巻き起こす可能性も高まっている。

 そういう点を考えると、IT革新の行方にアンテナを張り巡らせつつ、IT化を推し進めることは今後必須となってくるだろう。また、IT化・情報化で欧米各国に並んだだけでは、日本企業の差別化要因とはなり得ない。従って、日本企業および自社の強みを考えた上で、ITをどう差別化に生かすか、あるいは、ライバルの強みの無力化につなげていくかも考えていかねばならないだろう。

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