「いまさら聞けない原価管理」として、原価管理の基礎を分かりやすく解説する本連載。第5回では、意外に管理が難しい「時間」について、解説します。
米国メジャーリーグは今期のレギュラーシーズンが終わり、熱いポストシーズンが展開されています。それにしてもメジャーリーガーの年棒は驚くほど高額です。今期から活躍した田中将大選手の年棒は年間で2200万ドルだといいます。今期は20試合に登板し、投球数2009球ということですので、1球当たり約1万950ドルという計算になります。1球投じるに当たっての所要時間を投球の間合いも含めて30秒程度と考えると2万1900ドル/分という時間換算での金額になります。トレーニングを含めた時間を考えると数字の意味は変わりますが、それにしてもすごい金額です。
さて、第3回の「あの波乱の演出者!? サッカーボールで“製品原価算出の流れ”を考えてみる」で「人件費や設備償却費などの費用を集めて、作業時間などを基準として時間当たりの費用を算出し『配賦率』あるいは『チャージ』と呼ぶ」と説明しました。しかしよく考えてみるとここでいう「作業時間」はどの時間を指すのでしょうか。朝出社してラジオ体操を行っている時間は作業時間と考えるべきなのでしょうか。そこで今回は、言葉としては聞き慣れているものの定義するとなると単純ではない「時間」について考えてみることにします。
本稿はあくまでも原価算出に関する話を前提としていますので、ここでは生産に直接的に携わる人、直接工が関わる時間、に絞り込んで話を進めていきます。
一般的には、直接工の労働は、始業時刻と終業時刻が決まっており、残業や早退があればタイムカードなどで個人の就業時間が管理されます。そして、この就業時間に基づいて給与が支払われます。ここで重要なのは、就業時間内はいつも同じようなペースで製造を淡々と行っているわけではないということです。日によって、あるいは時間帯によって作業のペースや作業の密度にはバラツキが生まれます。そこで、就業時間内での作業に関わる時間を分解して考えてみることにします(図1)。
まずは、就業時間に対して全くモノの製造に携わらない時間帯があります。ここには朝礼、会議、研修、安全活動といった会社が目的をもって意図的に取っている時間(間接的時間)と、生産計画上数量が少ない場合や材料や前工程からの製品が届かずに作業が行えないといった企業としては発生を抑えたい時間(手待ち時間、作業なし時間)があります。
これらの時間を「非負荷時間」あるいは「管理損失時間」と呼び、操業時間から非負荷時間を差し引いた時間を「稼働時間」と呼びます。逆の見方をすると稼働時間とは直接的に製造に携わった時間ということになります。実はこの稼働時間こそが配賦率あるいはチャージを算出する際の分母となる時間になります。
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