「IoT(Internet of Things)」をうたう業界団体がここ数年で複数現れて、さまざまなプロモーションや標準化を始めているがそれはなぜか。Freescale Semiconductorの製品ラインアップと「Open Interconnect Consortium(OIC)」参加企業の顔ぶれから考察する。
まずは下の写真を見てほしい。これは2014年10月に米サンタクララで開催された「ARM TechCon 2014」の会場にFreescale Semiconductor(以下、Freescale)が出した広告である。なぜこれを取り上げたかというと、これがまさに各社が「IoT団体を形成する必要性」に直結しているからだ(関連記事:IoT観測所:そもそもIoTとは何か?「2014年のIoT」は何を意味するかを理解する )。
話の前提として、まずはFreescale Semiconductorの製品ラインアップを紹介しておく。同社はMCU(Micro Control Unit)/MPU(Micro-processing unit)について幅広く製品を展開しており、MCUでは8bitのS08/RS08/HC08というローエンド品が現在も提供されており、特にS08のラインアップは「Flexis」と呼ばれる32bit MCUとのマイグレーションパス(移行経路)を保ったシリーズも提供されている。
16bitに関して現在のS12はほぼ車載向けなので、いわゆるIoTにさほど関係は無いが、32bitに関しては「Kinetis」と呼ばれるCortex-M0+/M4のラインアップ(Cortex-M7についてもアナウンス済)と、独自の「ColdFire」(68K互換RISCプロセッサベースのMCU)、PowerPCコアを利用した「Qorivva」という32bit MCUも提供される(これも車載向けだが)。
このもう少し上には、「Vybrid」と呼ばれるCortex-A5とCortex-M0+/M4を搭載したハイブリッド型MCUが提供される。これらの製品を利用することで、自分では電源を持たないパッシブデバイス(Passive Device)からインターメディエイトデバイス(Intermediate Device、中間デバイス)、あるいはエンドに近いデバイスハブまでを構築可能である。
自動販売機やPOS端末などインターメディエイトデバイスの中でも高機能なもの向けには、「i.MXシリーズ」のアプリケーションプロセッサ、それとPowerQUICCファミリーと呼ばれるPowerPC+ネットワークアクセラレータを搭載した製品が用意されている。i.MXは白色家電や情報家電、POSやらキオスク端末といった民生〜産業用向けの汎用製品で、PowerQUICCは宅内ゲートウェイやアクセスポイント、小規模なエッジルータまで対応できる製品だ。
さらにその上、クラウド側に対応した製品が「QorIQファミリー」で、32bit/64bitのPowerPCもしくはCortex-Aシリーズプロセッサにネットワークアクセラレータを組み合わせた形で提供される。こちらはLTEを含む無線の基地局向けから、コアルータあるいは小規模なコンピュテーションサービスが提供できるレベルのプロセッサまでが用意されている。
このFreescaleのラインアップが完全か?つまり全てのセグメントにおいて、競合製品に対して機能あるいは特徴的な不足がなく、互角の争いができるのか?という議論はまた別途あるとして、ラインアップとしてはほぼトップトゥボトムで提供されている。
同社の場合、ラインアップに欠けているのはトップエンドにおけるコンピュテーションソリューション、つまりGPUカードやFPGAなどを併用しての、巨大な異種構成スケールアウトクラウドサーバを実現するためのソリューション程度であって、あとはソリューションとして無線統合のMCUが無いというあたりが、「強いて言えば」欠けている部分だ。
実は、ここまで幅広く製品を用意する半導体メーカーはほとんどない。強いて言えば、Texas Instruments(以下、TI)が同様のラインアップを構えるが、Freescaleに比較すると全レンジでやや製品の厚みに欠ける部分がある。もっとメジャーな、例えばIntelだとトップにあたるサーバ製品は充実しているが、ボトムはFreescaleでいうi.MXシリーズにあたる部分までしかなく、その下にあたる製品がない(*1)。
AMDはほぼIntelと似たラインアップだが、肝心のServer向け製品層が薄くなりかけている。IBMはPowerプロセッサの製造を行ってはいるが、こちらは完全にクラウド向け。APMやCaviumなどのネットワークプロセッサに強みを持つベンダーはクラウド向けに専念しており、幅広いラインアップを持つBroadcomですらミドルレンジ以上のみラインアップしており、ローエンドの部分は持ち合わせていない。
逆にAtmelやMicrochip、NXP、STMicroelectronics、Silicon LabsといったMCUで有力なベンダーは、いずれもローエンドに偏っており(強いて言えばAtmelのSAMA5がFreescaleのVybridに近いといった程度)、ほぼMCUマーケットに専念している。こうなってくると、IoT+クラウドのイメージに出てくる、「ローエンドからハイエンドまでを一気につないでシステムとして提供する」といった構図に必要なプロセッサやコンポーネントを一社で提供できるのは、本当にFreescaleとかTIぐらいしかない。
その状況を他メーカーが手をこまねいて見ているのかといえばそうではなく、複数メーカーで手を組んでソリューションを提供しよう、という方向に向かう事になる。その状況下で複数のメーカーが手を組むとき一番重要なのは何か?というと、プロトコルである。
下位レベルでは例えばTCP/IPだったり、ZigBeeといった業界標準のプロトコルを使うとしても、その上位レベルで「どんな際にどんなタイミングでどんなメッセージをどんな形で送るのか」をきちんと決めないと、事業者が勝手に自分に上位プロトコルを定めてシステムを作ってしまい、他のシステムとの相互接続性などが失われることになる。
これは単に事業者にとっての損失だけでなく、そこにソリューションを提供しようとする半導体メーカーにとっても損失である。当たり前ではあるが、ソリューションを提供する側としては、「このソリューションを利用することで、広範なデバイスあるいはクラウドと接続可能である(実際に接続するかどうかは事業者次第)」という状態を提供したいので、自社ソリューションの上でプロプライエタリ(独占的な)なIoTを構築しては欲しくないからだ。
(*1)厳密に言えば「無い」のではなく、「EOL(End Of Life、生産中止)になった」のだが、まぁ手に入らないというレベルで言えば同じことか
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