東京ビッグサイトで開催されている技術展示会「TECHNO-FRONTIER (テクノフロンティア)2014」(2014年7月23〜25日)の基調講演で、本田技術研究所 常務執行役員の大津啓司氏が「Hondaの未来の車創りと研究開発への取り組み」というテーマで講演を行った。
東京ビッグサイトで開催されている技術展示会「TECHNO-FRONTIER(テクノフロンティア)2014」の2014年7月23日の基調講演では、本田技術研究所 常務執行役員の大津啓司氏が「Hondaの未来の車創りと研究開発への取り組み」というテーマで講演を行った。同氏は現在の自動車業界と環境問題の関係や、新技術の方向性、ホンダの技術研究開発への取り組みについて語った。
地球温暖化や大気汚染などの環境問題への対策として、自動車メーカーは日々クリーンエネルギーに関する多くの新技術の開発を迫られている。日本では環境問題への対策の一環として、燃費性能の優れた車両に対して優遇税制を敷くシステムがとられている。大津氏は、「この優遇税制の基準が年々厳しくなっているため、国内自動車メーカーは短期間で性能を高められるような新技術を開発する必要に迫られている」と語る。
ホンダを含む国内自動車メーカー各社は、環境へ配慮したハイブリッド車や燃料電池車、電気自動車などの開発に注力している。しかし大津氏は、「現時点で最も普及しているガソリンエンジンなどの内燃機関を搭載する車両からの移行を進めるには、まだまだ乗り越えなければならない難題が多い」と説明する。例えば水素を燃料とする燃料電池車の場合、都市部では1台5億円ともいわれる水素ステーションの設置にかかる高額な設備投資を、当初は販売台数が限られるであろう燃料電池車への水素補充による収益で回収できるのかといった問題がある。大津氏は電気自動車についても「充電インフラの整備、モーターや電池のサイズと価格のバランス、走行距離の問題など、まだまだ『負のループ』から抜けられない状況が続いている」としている。
このように、燃料電池車や電気自動車の普及に関して課題が残る中、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンといった内燃機関を搭載する車両の販売台数は増加傾向にある。2030年には、内燃機関車の世界市場規模は現在の約1.4倍となる3400万台に達すると予測されている。大津氏はこうした状況を受け、「自動車メーカーがCO2排出量の削減に貢献するためには、『内燃機関の効率化』への注力がより重要な鍵になる」と主張する。
同氏によれば、石炭や石油といった1次エネルギーの採掘から車両の燃料として提供されるまでのエネルギーサイクルの環境負荷を分析する「Well to Wheel」の観点から見た場合、内燃機関の熱効率を一定のレベルまで到達させると、理論的には電気自動車よりも内燃機関車の方が環境負荷が低くなるという。
ホンダはそういった状況を受け、2012年からエンジンやパワートレインなどに同社が「Earth Dreams Technology」と呼ぶ「運転する楽しさと世界トップクラスの燃費を両立させる」ための新技術を導入している。また、ホンダはこうした技術や製品の開発を「手戻りなく」効率的に行うため、これまで経験ベースだった開発手法をモデルベース開発へと移行させているという。さらに大津氏は「ホンダはこれまでに販売してきたエンジンなどの製品データを標準化させ、次の開発でデータの再利用が行えるようにしている。その場合、計測条件や測定ポイントなど、データを保存する際のルールを統一することが重要」と開発設計の効率化について語った。
また、日本の自動車メーカーの共同技術研究の動きについても触れられた。日本では2014年4月に国内自動車メーカー8社が協力し、共同技術研究組合「AICE」を結成しており、大学との共同研究や人材の育成を行っているという(関連記事:熱効率50%の達成が目標、国内自動車メーカー8社がエンジン技術を共同開発)。大津氏は「欧州では、各自動車メーカーに共通する技術に関してはメーカー同士が協力して研究開発を行っている。自動車産業は日本の産業の中核であり、今後も日本経済をけん引していくためには企業同士の協力や産学官の連携が必要」と話す。また、同氏は「近年日本の自動車メーカーが、研究開発を海外のコンサルティング企業に委託するケースが増えている。これは研究開発の過程で得られるノウハウを失うことになり、結果的に日本の技術力の低下につながる可能性があるのではないか」と指摘した。
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