このようなアジア・ASEAN地域における拠点展開の動きは、その拠点の位置付けの変化にも見ることができます。【図3】は、ASEAN地域に展開している生産、販売、研究・開発拠点について、現在ならびに今後、どのような機能を持たせるかを尋ねた結果です。
生産拠点、販売拠点のいずれにおいても、現在の機能としては「現地ローカル市場向け」の比率が最も高くなっていますが、今後については「ASEAN市場向け」が最大となっています。また、「グローバルなサプライチェーンの中での主要拠点」「グローバルな顧客を対象とした拠点」の比率も大きく伸びています。そして、これと連動するように、研究・開発拠点においても、「ASEAN市場向け」、さらには「グローバルの中での主要拠点」へと、機能が変化していく傾向にあることが分かります。
これまで日本企業では、事業部門ごと、あるいは国内生産拠点ごとに個別に海外展開するケースが多かったのではないかと思います。しかし、今回の調査結果からも見られるように、ここにきて日本企業は、ASEANを面で捉えて事業展開し、さらにはグローバルな観点からの主要な極の1つとして位置付けるように変化を見せているようです。
ASEAN地域本社や地域統括機能をシンガポールやタイ、マレーシアに設置したり、あるいは購買本部や事業本部など本社機能の一部を移管する企業が見受けられるようになっているのは、このような動きの表れといえるでしょう。
日本企業にとってASEAN地域への事業展開が重要視されるようになっているわけですが、それでは現地への事業展開に伴って、どのような課題に直面しているのでしょうか。この結果をまとめたグラフが【図4】です。
ここでは「かなり問題である」と「問題である」の比率が高い順に、上位5項目に着目したいと思います。まず1つには、「現地ニーズに対する的確なマーケティング」(第3位)、「現地市場向けの商品・サービスの開発」(第5位)が挙げられていることが見て取れます。ローカル市場向け、ASEAN地域向けへと拠点機能を強化していく中で、現地市場のニーズに対応した商品やサービスを開発することが課題となっているということです。
そして、第4位には「経営の現地化、自律的な現地マネジメント」が挙げられています。現地ニーズに対応した事業展開をするためには、経営の現地化を進め、現地が自律的に行動できるようにしていく必要があります。
この経営の現地化を進めるうえで、第2位の「現地人社員への経営理念の浸透」が重要となるのでしょう。単に現地に任せっぱなしにするのではなく、自社がどのような理念や価値観を大切にするのかを現地の社員とも共有することが不可欠となります。そして、これらを実現していくために、何よりも「優秀な現地人材の獲得・育成・登用」(第1位)が最重要課題となるわけです。
以上、今回は日本企業のアジア・ASEANへの事業展開の現状と、それに伴う課題を見てきましたが、これらの課題に応えていくことが、日本企業がアジアと共に進化する道に他なりません。
次回は、それではどのようにして経営の現地化を進め、現地の力を生かしながら、現地市場のニーズにあった事業展開を行うのかについて取り上げたいと思います。
独立系中堅・中小企業の海外展開が進んでいます。「海外生産」コーナーでは、東アジア、ASEANを中心に、市場動向や商習慣、政治、風習などを、現地レポートで紹介しています。併せてご覧ください。
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