日本のモノづくりにとって、もはや一体不可分となっているアジア・ASEAN地域。一方で、さまざまなリスクを前にアジアへの事業展開に二の足を踏む企業もある。本連載では、日本能率協会が2013年に実施した「日本企業のASEAN地域における事業展開の課題」の調査結果を交えながら、日本のモノづくりを進化させていくために、アジア・ASEAN地域とどう向き合うべきかを、同協会アジア共・進化センター長の近田高志氏が解説する。
「共進化」という言葉があります。あまり聞きなれない単語ですが、生物学の用語で「複数の種が互いに生存や繁殖に影響を及ぼし合いながら進化する現象」(岩波書店『広辞苑』)を意味します。
日本能率協会は、2012年の創立70周年を機に「共進化の提唱」と題して提言を発表しましたが、この中で、日本企業の今後の成長の道として、「アジアと共に進化し、次の豊かさをつくり出そう」と訴えています。
国内市場が成熟化する中、成長するアジアのエネルギーを取り込むことで、日本企業はさらなる進化を遂げることができるはずだと考えています。また、アジア各国も社会インフラや環境、エネルギー、医療など多くの課題を克服していく必要があります。こうした社会問題を先取りして発展してきた、いわば“課題先進国”である日本と、それを解決する技術を磨いてきた日本企業の可能性はとても大きいといえるでしょう。それは取りも直さず、企業にとってはビジネスチャンスでもあります。
アジアでの事業を通じて、日本のモノづくりはどのように進化していくことができるのか。第1回目の今回は、日本企業がアジア・ASEAN地域への事業展開をどのように捉えているか、その中でどのような課題に直面しているのかを探っていきます。
まず、日本能率協会が2013年に実施した調査から、日本企業のASEAN地域へのビジネスの現状についてのデータを紹介します。ASEAN地域における事業展開状況について質問したところ、【図1】の通り製造業では52.7%が「さらに拡大する予定」、また13.0%が「進出を検討している」と回答しています。いずれも非製造業よりも大きな比率となっており、製造業にとってASEAN地域への事業展開を重視する傾向が高いことが分かります。
それでは、それぞれの企業が設置する拠点の国・地域はどのようになっているのでしょうか。生産、販売、研究・開発拠点ごとに、それぞれ現在ならびに5年後について、アジア地域における拠点の設置状況を尋ねた結果が、【図2-1】【図2-2】【図2-3】です。
ご覧の通り、いずれにおいても中国が最大の拠点展開先となっています。人件費の高騰や政治的なリスクもあり、生産・販売拠点は減少傾向にあるものの、研究・開発拠点はむしろ増加傾向にあります。アジアや世界への商品開発・生産拠点として、あるいは世界第2位のGDPという市場のダイナミズムを背景に、成長を続ける国内市場向けの拠点として、中国が重要拠点であることに当面、変わりはないようです。
一方で、ASEAN地域について見ると、生産拠点としてタイが高い存在感を示しています。タイは現在ならびに今後も第2位の設置先です。その他、ベトナム・ミャンマーの比率が高まっています。販売拠点については、インドネシアやベトナムの比率が高まっていることが特徴的です。バングラディシュやカンボジア、ラオス、ミャンマーも増加傾向にあります。また、研究・開発拠点について見ると、特にタイ、ベトナム、シンガポールそしてインドへの拠点展開が増加する結果となっています。
「チャイナプラスワン」、最近では「タイプラスワン」という言葉もありますが、日本企業のアジア・ASEANへの事業展開は、従来の「点」から今「面」へと広がりを見せているところだといえます(関連記事:チャイナプラスワンだけじゃない! 「タイプラスワン戦略」をご存じですか?)。
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