日本触媒は、「第5回国際二次電池展」において、ニッケル亜鉛電池の負極材料として利用できる新開発のアニオン伝導層一体型亜鉛電極を展示した。ニッケル亜鉛電池の最大の課題だった亜鉛電極上でのデンドライトの成長を抑制し、サイクル寿命を大幅に伸ばせることを特徴としている。
日本触媒は、「第5回国際二次電池展」(2014年2月26〜28日、東京ビッグサイト)において、ニッケル亜鉛電池の負極材料として利用できる新開発のアニオン伝導層一体型亜鉛電極を展示した。
ハイブリッド車や民生用機器などに広く利用されているニッケル水素電池は、正極材料は水酸化ニッケル、負極材料に水素吸蔵合金を用いる二次電池だ。一方、ニッケル亜鉛電池は、正極材料は同じ水酸化ニッケルだが、負極材料に亜鉛を用いている点が異なる。
ニッケル亜鉛電池は、出力電圧が1.73V、エネルギー密度が理論値で334Wh/kg、実効値で50〜100Wh/kg。ニッケル水素電池は、出力電圧が1.2V、エネルギー密度が理論値で217Wh/kg、実効値で50〜60Wh/kgなので、二次電池としての特性は上回っている。また、材料の亜鉛が、ニッケル水素電池の水素吸蔵合金(希土類元素の混合物)と比べて、はるかに安価で入手しやすいことも大きなメリットになる。
特性 | ニッケル亜鉛電池 | ニッケル水素電池 | リチウムイオン電池 | 空気亜鉛電池 |
---|---|---|---|---|
出力電圧 | 1.73V | 1.2V | 3.6〜4.2V | 1.65V |
エネルギー密度(理論値) | 334Wh/kg | 217Wh/kg | 360Wh/kg | 1370Wh/kg |
エネルギー密度(実効値) | 50〜100Wh/kg | 50〜60Wh/kg | 100〜120Wh/kg | 460Wh/kg |
表1 ニッケル亜鉛電池と他の二次電池の特性比較 出典:日本触媒 |
ただしニッケル亜鉛電池には、二次電池として用いる上で大きな課題がある。充放電を一定回数繰り返すと、負極の表面に針状結晶(デンドライト)が成長してセパレータを突き破り短絡を起こしてしまうのだ。一般的な親水性微多孔膜をセパレータとして使用した場合のサイクル寿命は100回程度。ニッケル水素電池が数千回のサイクル寿命を持つのと比べると、商品化の上で極めて問題が大きい。
日本触媒のアニオン伝導層一体型亜鉛電極をニッケル亜鉛電池に使えば、このデンドライトの成長をほぼ起こさずに済むという。現時点までの実験で、1600回の充放電サイクルを繰り返した後の容量低下は4.7%で、従来のニッケル亜鉛電池を大幅に上回るサイクル寿命を実現できている。
デンドライトの成長を抑える上で大きな役割を果たしているのが、新材料を用いて開発した亜鉛表面に張り付けたアニオン伝導層である。
従来のニッケル亜鉛電池では、放電時に、負極上で以下のような反応が起きている。
Zn+4OH−(水酸化イオン)→Zn(OH)42−(亜鉛酸イオン)+2e(電子)
デンドライトは、放電時に電解液に溶け出した亜鉛酸イオンが、充電時に亜鉛として電極上に成長するなどして発生する。一般的な親水性微多孔膜は、水酸化イオンを通りやすくするための微細な穴を多数有している。しかしニッケル亜鉛電池の場合、この微細な穴を通して亜鉛酸イオンの電解液への溶出が起こり、デンドライトの成長につながってしまう。かと言って、亜鉛酸イオンの溶出が起こらないよう、微細な穴がないセパレータを使えば、水酸化イオンが通れないので電気伝導が起こらず二次電池にならない。
日本触媒のアニオン伝導層は、新たに開発した有機と無機の複合材料によりこのジレンマを解決した。同社の説明員によれば、「このアニオン伝導層は、水酸化イオンは通すが、亜鉛酸イオンは通さない。このため、セパレータに微細な穴がなくても、電気伝導が可能になる」という。
また、このアニオン伝導層は、膜全面を使って水酸化イオンを通すので、二次電池の内部抵抗を小さくできるというメリットもある。親水性微多孔膜の場合、微細な穴の部分でしか水酸化イオンを通せないので、それ以外の部分が内部抵抗として換算されるからだ。
同社は、アニオン伝導層一体型亜鉛電極を用いたニッケル亜鉛電池で、ニッケル水素電池や鉛バッテリーを置き換えられるとしている。リチウムイオン電池は、出力電圧が3.6〜4.2V、エネルギー密度が理論値で360Wh/kg、実効値で100〜120Wh/kgあるため、ニッケル亜鉛電池による代替は想定していない。
ただし、次世代電気自動車向けの二次電池として期待される空気亜鉛電池にも適用可能だとしている。空気亜鉛電池は、エネルギー密度が理論値で1370Wh/kg、実効値で460Wh/kgと、リチウムイオン電池を大幅に上回る性能を持つ。アニオン伝導層一体型亜鉛電極は、開発課題の1つであるデンドライト成長の抑制を可能にする点でも有望といえる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.