国立環境研究所は、燃費が良好なことから新車への搭載が増えている直噴ガソリンエンジンが、従来のポート噴射ガソリンエンジンと比べて、排気ガスに含まれるPM2.5の個数が10倍以上に達するという実験結果を発表した。
国立環境研究所は2013年12月16日、燃費が良好なことから新車への搭載が増えている直噴ガソリンエンジンが、従来のポート噴射ガソリンエンジンと比べて、排気ガスに含まれる粒径が2.5μm以下の粒子状物質(PM2.5)の個数が10倍以上に達するという実験結果を発表した。同研究所は、「最近の直噴ガソリン車について詳細な排出実態調査や環境影響評価、追加的な排気対策の必要性など、環境影響の未然防止の観点から、さまざまな研究や対策が早急に求められる」と提言している。
ガソリンエンジンの燃焼方式には、エンジン気筒内に燃料を直接噴射する直噴方式と、燃料と空気の混合気を噴射するポート噴射方式がある。直噴方式は、ポート噴射方式よりも燃費を向上させやすいもののススが多く発生するためあまり採用されてはいなかった。しかし、さらなる改良によるコスト削減やさらなる燃費の向上もあって、最近になって欧車を中心に広く搭載されるようになり、日本車でも急速に普及を始めている。2012年に日本の自動車メーカーから発売された車両の新型エンジンの約40%は直噴方式になっているという。
その一方で、直噴ガソリンエンジンの課題であるススの発生しやすさを原因とする粒子状物質の排出量の増加が問題視されるようになっている。日本では自動車から排出される粒子状物質の個数についての規制はまだないものの、直噴ガソリンエンジンの導入で先行した欧州では、2014年から規制の運用が始まる予定だ。
今回の国立環境研究所の研究結果では、2011年式の直噴ガソリンエンジン車2台(日本および欧州メーカー製各1台)と、2007年式のポート噴射ガソリンエンジン車(日本メーカー製の直噴ガソリンエンジン車と同じ車種)の計3台を使用。日本国内の燃費計測に用いられるJC08モードで走行させ、粒子状物質の排出量や粒径分布、化学組成などを計測した。
計測の結果、日本の直噴ガソリンエンジン車が1km走行する間に排出するPM2.5の個数は、ポート噴射ガソリンエンジン車の10倍以上に達することは明らかになった。さらに、欧州の直噴ガソリンエンジン車は、日本の直噴ガソリンエンジン車の約5倍に達することも分かった。これを欧州で導入される予定の規制と比較すると、日本の直噴ガソリンエンジン車は2017年の規制値を上回っており、欧州の直噴ガソリンエンジン車は2014年の規制値にとほぼ同等だったという。
一方、粒子重量については、2台の直噴ガソリンエンジン車はポート噴射ガソリンエンジン車よりも多いものの、日本国内の規制値(希薄燃焼方式の直噴ガソリンエンジン車のみが対象)は下回っていた。
排出された粒子状物質の化学組成を分析したところ、3台のガソリンエンジン車とも、粒子状物質の主成分はススだった。ポート噴射ガソリンエンジン車は約70%、日本の直噴ガソリンエンジン車は約80%、欧州の直噴ガソリンエンジン車は90%以上をススが占める。
また、日本の直噴ガソリンエンジン車が排出する粒子状物質の詳細な分析も行っている。その結果、粒子中のススや炭化水素は、大半がガソリンを起源とすることが分かった。なお、エンジンオイルの寄与は10〜30%程度だった。
これまでは、自動車から排出される粒子状物質のほとんどはディーゼルエンジン車からのものがほとんどだった。しかし、クリーンディーゼルの登場によって、粒子状物質の排出量は年々少なくなっている。これに対して、従来は粒子状物質の排出が問題とされなかったガソリンエンジン車が、ポート噴射方式から直噴方式への移行によって、ディーゼルエンジン車と同等レベルで粒子状物質を排出するようになる可能性もある。
国立環境研究所は、今回の実験結果を基に、2020年にポート噴射ガソリンエンジン車が全て直噴ガソリンエンジン車に置き換わるという極端なケースを仮定し、日本国内の自動車から排出される粒子状物質の総量を見積もった。その結果、2010年時点では、ディーゼルエンジン車からの排出が100%を占めているのに対して、2020年には直噴ガソリンエンジン車からの排出が30%強を占めるようになったという。
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