坂本さんは、それまで身長40cm前後のロボットを自身の手で加工・製作してきましたが、モノづくり集団NKKと共同制作を始めたことで、ロボットを“大きく進化させる”ことが可能になりました。
プロジェクトの基本方針は「2年ごとに身長を2倍にする」というもの。かなりアバウトな方針のように思いますが、ブレることなく彼らは開発を進めてきました。
とはいうものの、1mを2mに、2mを4mにするには、高いハードルがありました。身長が2倍になれば、体積と重量は8倍。関節を可動させるためのトルクは16倍以上必要になります。小型ロボットのフレームを単純に拡大・巨大化するだけでは、筐体が重過ぎますし、強度も不足してしまいます。
はじめロボット43号機を設計する際に掲げた目標重量は「300kg」。一般的なファミリーカーが全長4mで重さが1t程度ですから、かなり厳しい目標設定と言えます。しかも、人が搭乗するため強度の確保は必須です。
開発資金に余裕があるわけではないため、トライ&エラーで試作を繰り返すことはできません。そのため、「試作に入る前に、各部品を3次元CADで設計し、構造解析シミュレーションで強度解析を念入りに行いました」と坂本さん。アクチュエータユニットなど大きな応力がかかる部品を最適化するため、荷重をかけたときの変位量が許容範囲になるかをチェック。強度を得るため、単に厚い板材を使用しては重量オーバーになってしまいますし、コストもアップしてしまいます。解析結果を定例会で報告し、メンバーからアドバイスを受けながら、形状やデザインを何パターンも作り、十分な強度を持った最軽量の設計を目指しました。
シミュレーターで最適パターンが完成したら、次に部品を試作。工場内で、実際に300kgの荷重をかけてテストを実施したそうです。
こうした基礎研究におよそ2年が費やされました。時間がかかったのは、開発メンバーのほぼ全員が社長業で、昼間は本業に専念しており、プロジェクトに携われるのが平日の夜間か土日しかなかったためです。
最終的に基本となるフレームは、2mm厚のアルミ合金で製作することになりました。4mというサイズを考えると「薄過ぎるのはでは?」という懸念が生じますが、「箱型構造にすれば、強度が保てるんですよ」と、坂本さんは言います。ただし、小型の二足歩行ロボットのように板金をネジで固定するのは、無理がありました。板金をM3のネジで仮止めした後、接着剤で面接着するというのは、三木さんのアイデアです。
一番荷重がかかるのは、足首と股関節のアクチュエータユニット。股関節や膝の部分は20mm厚の板材を組み合わせています。これも軽量化のために肉抜きし、膝の関節部分は内側を9mm削るなどして工夫したそうです。
2mサイズのロボットからは、産業用サーボモータを使用しています。ロボットアームに採用されているもので、パワーが大きく信頼性が高いのですが、位置決めの要求精度が厳密だったり、過負荷で突然停止したりなど二足歩行ロボットには使いづらい面もあるそうです。これを、二足歩行ロボットのフレームに組み込むためのアクチュエータユニットも、自作しなくてはなりません。
こうしたモータ周りの課題は、金増さんが中心になって解決してきました。金増さんは2010年から九州大学と共同で「ロボット関節の研究開発」を開始。波動歯車装置を用い、ロボット用モータの軽量高強度化技術の開発を行っていました。この技術が4mロボットにも転用されているそうです。その他、前述のアクチュエータユニットも、負荷状態によるモータの特性試験を行うための装置も、全て金増さんの自作です。
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