「西淀川ものづくりまつり2012」で一般公開された搭乗型巨大二足歩行ロボット「はじめロボット43号機」。その全ての部品が大阪市西淀川の町工場で作られている。今回は、大阪の町工場から生まれた4mロボットの開発秘話と、町工場のオヤジたちのでっかい夢をレポートする。
「こんな大きなロボットを作っても、一体、何の役に立つのか分からないんですけどねぇ」――。
搭乗型巨大二足歩行ロボット「はじめロボット43号機」が、初めて一般公開された「西淀川ものづくりまつり2012」(2012年8月25日開催)の除幕式で、区長が苦笑交じりで発した言葉です(関連記事)。
これを聞いて、「そ、それを言っちゃあ……。もうちょっと、除幕式にふさわしい気の利いたコメントを!」とツッコミを入れたくなりましたが、搭乗型巨大二足歩行ロボットの製作を目指す「4mロボットプロジェクト」のポスターを見ると、
このロボットは、空を飛べない。敵と戦うヒーローじゃない。ガレキ除去もできない……。
という文言が記載されていました……。作っている本人たちもこう言っていることですし、きっとそうなんでしょう(笑)。では、何のために作っているのでしょうか。はじめロボット43号機に、どんな思いが込められているのでしょうか。今回は、そんな開発者たちの思いに迫ります。
はじめロボット43号機の製作に関し、これまでどこからも研究・開発費や助成金などの資金援助を受けていないと聞いています。つまり、2005年に4mロボットプロジェクトを発足してから、現在に至るまで、メンバーが手弁当で開発を続けてきたということです。
実際、このプロジェクトに携わっているのは、大阪市西淀川区でロボット製作会社「はじめ研究所」を経営する坂本元さんと、互いの技術で常に新しいチャレンジを続けている西淀川区の町工場集団「西淀川経営改善研究会(NKK)」のメンバーです。
そんな町工場のオヤジたちが集まって、これまでどのように開発を続けてきたのでしょうか。およそ7年掛かりのプロジェクトを完遂するには、物理的な課題はもちろんのこと、メンバーの意志やモチベーションを保ち続けなければならないという難しさもあることでしょう。はじめロボット43号機の製作メンバーに、そのあたりの話を詳しく聞いてきました。
4mロボットプロジェクトの開発責任者は、はじめ研究所の坂本さんです。今年45歳(2012年時点)になる坂本さんは、“ファーストガンダム”世代のど真ん中。高校生のころは、ガンプラ(ガンダムのプラモデル)に夢中になったそうです。
TVアニメ「機動戦士ガンダム」を見て、ロボットに憧れ・関心を持った男子は多かったことでしょう。しかし、その中で「21世紀には、こんなロボットが実在する」と考え、「いつか自分がそれを作るんだ!」と決意した人はどのくらいいるでしょうか。そして、巨大ロボットを作る夢のために将来の進路を選択した人は、果たして何人いるでしょうか。坂本さんは、その数少ない(であろう)「いつかガンダムを作る!」と決意した人の一人です。
高校卒業後の進路に、上智大学 工学部 電気・電子工学科を選択したのも、将来、ロボットを作るための布石でした。就職は、「大きなモノを作っている会社」ということで川崎重工へ入社。会社員時代は主にソフトウェア開発に従事し、LNG(液化天然ガス)運搬船の主機ボイラーのデジタル制御装置や500系新幹線試験車両の車体傾斜制御装置などの開発に携わったそうです。
ロボットの研究・開発ではないものの、目の前の仕事を楽しんでいた坂本さんに転機が訪れます。高校生の坂本さんが「21世紀には……」と考えていたように、二足歩行ロボットが実社会に登場し始めたのです。
2000年にホンダが「ASIMO」を、ソニーが「SDR-3X」を発表し、日本は第2次ロボットブームに沸きました。2002年には、世界初の二足歩行ロボット競技大会「ROBO-ONE」がスタート。「2050年までに、サッカーの世界チャンピオンチームに勝てる、自律型ロボットのチームを作る」という夢を掲げる「ロボカップ」にも、ヒューマノイドリーグが発足されました。二足歩行ロボットは、単なる夢の存在ではなくなったのです。
坂本さんは川崎重工を退社。2002年にはじめ研究所を設立し、二足歩行ロボットの研究・開発をスタートさせました。
最初の数年は、個人で製作した「はじめロボット」で、ROBO-ONEやロボカップに出場。安定した歩行と運動性能で数々の成績を残し、周囲からも高い評価を得ていました。
自宅兼事務所でコツコツとロボットを製作し、競技会に出場するという地道な活動の中で人脈を広げていった坂本さん。この活動が後に、NKKとの共同プロジェクト立ち上げにつながるとは思いもしなかったことでしょう。
一方、NKKのメンバーで、プロジェクト発起人である吉則工業の金増健次さんは、「ガンダムは見たことがない」という「鉄人28号」世代。2005年に身長38cmのヒューマノイドロボット 鉄人28号が大阪市内のロボットベンチャーから発売されたとき、子どものころの夢を思い出すと同時に、「大きくなければ鉄人じゃない!」と思ったそうです。
金増さんは、NKKの定例会で「次は、巨大ロボットを作りたい」と発言。それがきっかけで、NKKのまとめ役を務める三木製作所の三木繁親さんが、以前、異業種交流会で知り合った坂本さんにコンタクトを取るに至ったというわけです。
こうして、巨大ロボットに憧れる男たちが西淀川の地に集結したのです。
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