東京都大田区の中小企業と童夢カーボンマジック、ソフトウェアクレイドル、東京大学などが参加する「下町ボブスレー」ネットワークプロジェクトが、ボブスレー日本代表チーム向けのソリを開発している。フェラーリやBMW、NASAが開発する世界の強豪チームのソリにどこまで対抗できるのか、注目だ。
「氷上のF1」とも呼ばれるボブスレー。ボブスレー競技でワールドカップやオリンピックを勝ち抜くためには、本家F1のレーシングカーと同等の技術を用いて開発した炭素繊維強化樹脂(CFRP)製のカウルや、摩擦力を大幅に低減できる金属製のランナー(コースの雪面と接する部分)を持ったソリが必要になる。実際に、イタリア代表はフェラーリ、ドイツ代表はBMW、米国代表はNASA(米航空宇宙局)がソリの開発を支援しているのだ。
これらの強豪国に対してボブスレーの日本代表は、前回の冬季五輪ではドイツ代表が払い下げた中古のソリを改良して競技に臨んでいた。政府の事業仕分けによって予算が削減されていることもあり、高性能のソリを用意できる状況にはない。もちろん、国内の大手自動車メーカーによる支援も得られていない。
そこで、ボブスレー日本代表のソリの開発に名乗りを上げたのが、「下町ボブスレー」ネットワークプロジェクトである。同プロジェクトには、昭和製作所、上島熱処理工業所、マテリアルなど東京都大田区で金属加工を手掛ける中小企業と、レーシングカー向けにCFRP製ボディを設計・開発している童夢カーボンマジック、熱流体解析ツールを手掛けるソフトウェアクレイドル、東京大学などが参加している。東京大学大学院教授の加藤孝久氏が設計したランナーを、大田区の中小企業が高度な金属加工技術を生かして製造する。CFRP製カウルは、童夢カーボンマジックがレーシングカーでのノウハウを生かして設計する。また、ソフトウェアクレイドルは、同社の熱流体解析ツール「SCRYU/Tetra」を使って、ボブスレーソリの空力解析を行う。
プロジェクトが発足したのは2012年1月。現在は、仙台大学が所有するボブスレーソリ使った風洞実験や空力解析の結果から、構造把握を進めている段階。同年6月末までに新開発のボブスレーソリの設計を完了した後、カウルやランナーなどの製造に入る。完成予定は同年9月末で、その後長野県のボブスレーコースで試験走行を行う計画である。なお、開発中のボブスレーソリは女子2人乗り向けとなっている。
「下町ボブスレー」ネットワークプロジェクトが、ボブスレーソリを開発する理由は2つある。1つ目は、プロジェクトを通じて日本企業が不得手といわれている、モノ・コトづくりの基礎を築いて、世界に日本のモノづくり将来性を示すとともに、日本の若い世代にモノづくりは面白いと感じてもらうことである。2つ目は、ランナーと同様に低摩擦化技術が必要になる風力発電や、CFRPと金属部品を融合させる技術が必要になる航空機などの産業に、大田区の中小企業が参入する第一歩とすることだ。
同プロジェクト推進委員会の委員長を務めるマテリアル社長の細貝淳一氏は、「童夢カーボンマジックのCFRP技術と大田区の金属加工技術を融合させたボブスレーソリがどこまで太刀打ちできるのか、チャンレンジャーとして世界に挑みたい。『下町ボブスレー』で日本代表がオリンピックに入賞すれば、大田区の企業に対する世界的な評価を高められるはずだ」と述べている。
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