「欧州市場ではクリーンディーゼル技術が当面重要だが、それだけでCO2(二酸化炭素)排出量をゼロにするゼロエミッションを達成できるわけではない」(内山田氏、図2)。
ゼロエミッションを達成する方法は複数あるが、「電池技術はハイブリッド車はもちろん、未来のモビリティに必須の技術である」(BMWグループ開発担当上級副社長のクラウス・ドレーガー(Klaus Draeger)氏)。
しかし、現在の電池技術のまま、あらゆる車種を電気自動車(EV)化することはコスト面、性能面から難しいというのが両社の判断だ。「次世代リチウムイオン二次電池として最も必要なのはエネルギー密度が高いことだ。エネルギー密度を向上できれば、自動車の品質を高め、コストを下げることが可能になる」(ドレーガー氏)。つまり、EV車の展開の幅が広がる。
「次世代リチウムイオン二次電池の開発では正極技術と負極技術、電解質技術の3要素が重要である。両社で分担して開発することに意味がある。なぜなら同電池の開発は競争が特に激しく、BMWと共同で『開発エリア』をなるべく早く縮める必要があるからだ」(内山田氏)。材料関係の研究開発は、組み合わせの爆発が起きやすく、結果が出にくい組み合わせに注力してしまうと、成果がでないまま時間だけが過ぎてしまうことがある。このような事態を避けたいということだ。
「トヨタ自動車は二次電池を長く量産車に採用してきた。BMWには大学を中心とした幅広い研究ネットワークがある。両社の協業には意味がある」(内山田氏)。
トヨタとBMWが協業の合意に至った前提を、両社の首脳は次のように説明した。
「BMWは日本に研究開発拠点を置いている唯一の海外自動車メーカーである。日本企業との協業も多い。だが、日本の自動車メーカーとのパートナーシップ締結は初めてである」「当社はサステナブル技術に優れた企業であり、トヨタ自動車はハイブリッド車を世界に知らしめた企業である。両社の協業で未来のモビリティを変えることができる」(ドレーガー氏)。
「トヨタ自動車は石油に頼らない自動車開発を重視している。省石油は1997年から販売を始めたハイブリッド車『プリウス』で実現してきており、プリウスの世界累計出荷台数は340万台に達した。これは石油換算で800万kLの削減に相当する。CO2(二酸化炭素)排出量換算では2300万トンの削減に当たる」「今後の脱石油は電気自動車(EV)、バイオ燃料、水素で実現する」(内山田氏)。
内山田氏によれば、提携に至った理由は以下のようなものだ。
欧州市場向けにディーゼル技術が必要であることから、2011年4月から両社のディスカッションが始まり、そのなかで得た3点の判断があった。まず、ディーゼルの供給を受ける相手としてBMWが適切と判断したこと、次に、自動車技術への思いが研究開発者同士で合致し、重要視する研究開発テーマが似通っていたこと、最後にディスカッションの過程でトヨタ自動車の技術者が共同作業しやすい風土がBMWにあったこと、だという。
ドレーガー氏は次のように理由を説明した。革新的技術を重視していること、エンジニアリングに重きを置いていることが両社で共通しており、今後のモビリティ、特に電気を使ったモビリティを押し進めるには協業のメリットがあると判断した、という。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.