ガソリン車がPHV、EVに置き換わっていくと、車の付加価値も変化する。第1回ではPHV、EVが社会システムに貢献するエネルギー管理について取り上げた。第2回は、ユーザーとつながるために必要なソフトウェアサービスについて聞いた。
ものづくりで力を発揮してきたトヨタ自動車。しかし、ガソリン車がPHV(プラグインハイブリッド車)やEV(電気自動車)に変わっていくなか、ものづくりの姿も変化していく。極言すれば、電池とモーター、インバーターなどの回路を持ち寄れば、自動車産業以外でも自動車を製造できるようになるからだ。自動車メーカーならではの強みを発揮し続けるにはどうすればよいのか。トヨタ自動車 常務執行役員で、事業開発本部、情報事業本部、情報システム本部で本部長を務める友山茂樹氏に聞いた(図1)。
@IT MONOist(MONOist) これまでの自動車は乗り心地や性能、内装などに付加価値があった。PHVやEVでは付加価値がどのように変わるのか。
友山氏 自動車の性能は重要であり続ける。ユーザーの好みに合わせたいろいろな商品をそろえることも必要だ。ただし、それだけではビジネスが伸びなくなっていく。これまで、自動車ビジネスの付加価値は自動車の製造自体にあった。EVになると、極端な話をすれば、モーターとインバーター、電池を組み合わせることで、他の産業でも製造できる。
製造の上流側では電池などのような部品が大きな付加価値を持つようになってきている。下流はどうだろうか。さまざまなIT産業が作り上げたサービスに価値が次々と生まれる。このような状況を指して、製造の価値が低くなる、いわゆるスマイルカーブだという声もある。
当社は上流、下流とも投資をし、伸ばしていくが、特にユーザーとの接点となる下流が重要だ。投資をするだけでなく、有力な企業と提携していく。自動車を単なるプロダクトではなく、ユーザーにサービスを提供するための接点、さらに経営に生かす情報を収集するための接点と捉えていかなければならない。700万台の自動車を毎年製造、販売しているのではなくて、700万の接点が増えていっているということだ。このように考えると、自動車ビジネスはこれまでとは異質なものになっていき、可能性が増えていく。
自動車の保有を含めて、どのようなトータルライフサービスを提供できるのか、PHV、EVが登場するとき、このようなことが問われている。当社が生き残るというとオーバーな表現だが、自動車ビジネスを健全に拡大していくうえでは自動車自身のIT化ももちろんだが、ITの力をどう使うかが重要だ。
MONOist Microsoftのクラウドサービス「Azure」を使って動く、トヨタ自動車のテレマティクスサービス「トヨタスマートセンター」が重要だということか。
友山氏 トヨタスマートセンターは、自動車が社会システムの中の1つの要素となっていくために必要な技術だ。スマートグリッドへの取り組みの一環として、住宅とPHVやEV、電力供給事業者をまたがってエネルギー消費を統合的にコントロールするためのサービスであり、どちらかといえば社会貢献に役立つ技術だ。
ただし、これだけでは不十分だ。当社は自動車ビジネスを進めており、そこにはユーザーの他にディーラーも深く関わっている。メーカーとディーラー、ユーザーの間に長期的な信頼関係を構築していくことが、当社が競争優位になるために欠かせない。ユーザーに視点を合わせたサービスが必要であり、SNS(Social Networking Service)を使った「トヨタフレンド」サービスをPHV発売と合わせて、2012年に立ち上げる。
MONOist トヨタスマートセンターとトヨタフレンドは何が違うのか。
友山氏 クラウドを利用して動作するサービスという点ではどちらも同じだ。トヨタスマートセンターでは、当社が開発した車載機と通信機を自動車に載せ、クラウドとしてMicrosoftの「Azure」を使う。
トヨタフレンドはユーザーとディーラー、メーカーをつなぐ情報サービスだ。トヨタスマートセンターとは異なり、ユーザーに視点を合わせている。情報端末もユーザーが好みの装置を利用できるようにした。ユーザーは「iPad」を使ったり、「iPhone」を使ったり、いろいろなものを選ぶだろう。コンテンツを提供するプロバイダーも、各種のAPIを使うだろう。こうなると、オープンなプラットフォームを選ばなければならない。そこで、salesforce.comと提携し、同社のクラウドサービスを採用した。
Micrsoftのクラウドとsalesforece.comのクラウドはそれぞれ独立したものではなく、クラウド間での密接なデータ交換を考えている(図2)。
MONOist salesforce.comのクラウドはオープンであり、トヨタ自動車が計画できない部分が出てくる。なぜオープンにこだわるのか。
友山氏 国内の自動車の代替サイクルは次第に長くなっており、現在は7年以上。つまり、当社が設計した車載装置をユーザーが7〜10年間使うことになる。一方、スマートフォンなど、トヨタフレンドを利用するユーザーの端末は6カ月単位で変わっていく。ユーザーの端末に合わせて、当社の車載装置を6カ月単位で更新することは不可能だ。
製品サイクルが極端に違うもの同士に接点を作るにはどうすればよいか。トヨタスマートセンターをAzureで構成し、オープンプラットフォーム上のトヨタフレンドとクラウド上で接点を持たせる仕組みを考えた。
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