ソフトウェア領域を手に入れたPTC、Integrityで車載ソフトウェア開発プロセスをカバー車載ソフトウェア構成管理で攻勢

2011年5月、PTCはソフトウェア開発プロジェクト管理ツールベンダーMKSを買収した。ソフトウェア領域の統合管理ツールを自社ポートフォリオに組み込んだPTCは、自動車業界を始めとする組み込みソフトウェア業界にどのようなアプローチをしていくのだろうか。

» 2011年11月25日 18時50分 公開
[原田美穂,@IT MONOist]

 @IT MONOistでは2011年11月24日、PTCジャパン Integrity事業本部 日本・アジアパシフィック統括事業本部長 デビット・ジョーンズ氏からPTC Integrity(以降、Integrityと略記)の今後について話を聞く機会を得た。本稿ではその概要を紹介する。

モノづくりにおける付加価値はソフトウェアに掛かっている

 「日本の自動車メーカーは要件定義が下手」と語るのは、PTCジャパン Integrity事業本部 日本・アジアパシフィック統括事業本部長 デビット・ジョーンズ氏だ。

 「要件定義が上手くできないため、C言語で記述したソースコードで設計を指示することもある。サプライヤはそのソースコードを読んで、『あぁ、こういう処理をしたいのね』と理解した後、結局メーカーが渡したソースコードを捨ててしまう。問題なく実装できるレベルのコードではないですし、実装方法のノウハウはサプライヤ側が持っていますから。要件定義がしっかりできていれば、無駄なコーディングは不要なはずです」(ジョーンズ氏)

ジョーンズ氏 PTCジャパン Integrity事業本部 日本・アジアパシフィック統括事業本部長 デビット・ジョーンズ氏

 ジョーンズ氏は、日本の自動車開発が依然として擦り合わせ型の開発であると指摘する。仕様策定時の作り込みではなく、個別の要素ごとの作り込みが優先される非効率な開発工程から脱却していない体制では、派生開発が多い自動車開発において、都度十分な品質を保つことは難しい。加えて、制御コードの行数は年々膨らみ続けている。効率の良い派生開発のためにも過去のノウハウ活用は必至となりつつある。

 さらに、自動車の安全性が車載ソフトウェアに依存しつつある中、その品質とトレーサビリティを確保するための規格ISO 26262が2011年11月正式発行となった。自動車メーカー各社はサプライヤを含め対応を急いでおり、ツールベンダーやコンサルティング企業が攻勢をかけている。

 「われわれの強みは、シングルリポジトリであること」(ジョーンズ氏)

 単一のリポジトリ上で、さまざまなドキュメント、コード類を管理でき、トレースが容易であるため、シンプルな管理体制が構築でき、かつ、より上位のシステムレベルでの管理(Windchillによるエレ・メカ・ソフトを含む要件管理〜成果物管理)との連携が容易な点が同製品の特徴の1つのようだ。

IntegrityとWindchillの関係 IntegrityとWindchillの関係 要件管理機能の一部はエレ・メカ・ソフトを包括するシステムレベルの管理機能としてWindchillに統合される。それ以外のソフトウェア領域の管理部分はIntegrityが一括管理し、マイルストーンごとの情報をWindchill側に渡す仕組みになっている。電気回路設計CAD領域については主要ベンダー各社の製品と連携する

ドキュメント・ソースをめぐるサプライヤとOEMメーカーのパワーバランス

 ジョーンズ氏からは「従来の開発方法ではサプライヤ側がノウハウを蓄積し、メーカーから見ると“ブラックボックス”化している重要な機能が多い印象」との指摘もあった。

 「サプライヤとOEMメーカーのパワーバランスは、以前はメーカーが強く、サプライヤがそれに従う、という構図でした。しかし、EV開発に見られるように、ソフトウェア制御への依存度合いが高まるにつれ、制御系ソフトウェア開発のノウハウを持つサプライヤ側の力が強まりつつある印象です。これはドイツの自動車関連企業で顕著な現象ですが、日本でも同様のことが起こりつつあります。いま、OEMメーカーはこのノウハウをサプライヤから取り戻そうという考えを持ちつつあるようです」(ジョーンズ氏)

 同社製品は前述の通り、実際の実装を行うサプライヤ側に導入されるケースが多かったようだが、最近ではOEMメーカー側からの問い合わせが増えているという。

 「従来、サプライヤ側に蓄積されているドキュメントや成果物管理向けのニーズが多かったのですが、こうしたパワーバランスの変化を背景にOEMメーカーからの問い合わせが増えつつある状況」(ジョーンズ氏)

車載システム向けから、医療、コンシューマエレクトロニクス製品へ

 現在、国内では50社程度に製品を提供しており「そのうち半数以上が自動車関係のソフトウェア開発企業」(ジョーンズ氏)だという。現在は車載ソフトウェア開発向けフォーカスした販売体制をとっているが、「将来的には同様の仕組みを必要としている医療機器分野や、携帯電話などのエレクトロニクス製品、航空宇宙分野への展開を検討している」(ジョーンズ氏)という。

 他分野への展開はPTCによる買収の前から行われており、例えば、ボーイング787の機内ソフトウェア構成管理(ANA、JALによる実装)にも採用されている。ボーイング787の機内ソフトウェアは各航空会社が実装することになっており、各社はこの部分でサービスの差別化を図ることができるようになっている。一方で、個別の航空会社がスクラッチで開発するのは負担が大きい。この点に着目した日本の航空会社が、いち早くシステムを構築し、パッケージ化して各航空会社に展開するというビジネスを進めているという。

 「ANAおよびJALは、共同で社内システムを同製品をベースに実装し(構成管理をIntegrityで実装)、それをパッケージ化して各国の航空会社に販売するビジネスを行っています。Integrityを採用することで、アフターメンテナンスの品質を担保しています」(ジョーンズ氏)

PTC Integrity

 従来、MKS Integrityとして提供していたソフトウェア構成管理ツール。ソフトウェアソースコード管理に加え、要件管理、構成管理、プロジェクト管理、テスト管理なども一括して行う。ソースコード管理そのものは、外部のSubvirsionなどのリポジトリと連携する。

 同製品の最大の特徴は単一のリポジトリであること。複数の管理ツールを使った場合に、その関連性をトレースすることが難しいケースが多いが、同製品の場合は、各ドキュメントを単一のデータベース上でひも付けて管理できる。車載ソフトウェアのための標準規格であるAUTOSAR、プロセスや構成管理のための標準規格CMMIに準拠しており、ISO 26262の認証も取得済み。

 モデルベース開発のためのモデリングツールMATLABとのデータ連携インタフェースも実装されている。この他、要求管理ツールIBM Rational DOORS、制御システム開発ツールdSPACE、UMLモデリングツールEnterprise Architectやソフトウェア開発ツールVisual Studioといった主要な開発ツール類との連携機能も実装済みだ。

システムイメージ システムイメージ

 OEM/サプライヤ間のデータ交換用文書フォーマットであるRIFおよびReqIF、測定ツール向けの規格であるASAM AEプロトコルにも対応している。またOffice Open XML形式に準拠したドキュメントのインポート/エクスポートできるようになっており、古いドキュメントも柔軟に統合できるとしている。


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