現在、同社では構造と熱流体の連成解析を実施している。今後は、光と構造、熱流体についても実施したいということだ。「まず熱の流れを解析し、続いて熱による構造体の変形を調べるため構造解析を行っています。そこからさらに配光の変化をシミュレーションできることが目標ですね」(菊池氏)。
ただ、光のシミュレーションでネックになるのが高精度のメッシュだという。構造解析用のメッシュでは光の解析には対応できないとのことだ。一方、光解析用ほど細かいメッシュでは、データが重すぎて構造解析や熱流体解析には使えない。いますぐの対応は難しいが、「目標としては3年のうちにはできるめどを付けられれば」(菊池氏)とのことだ。
CAEを業務で十分に活用できるようになるまで、始めは手探りの状態だったという。精度のよい試験方法が分からないため、シミュレーションをしてみても「結果が合っているのかどうか」も確かめようがなかった。そのため設計部署などにも最初はデータの有効性を認めてもらえなかった。以後は試行錯誤を重ね、現在は必ず実測定時に合わせて解析を実施できるようになり、精度も高まった。
また「設計をしたらCAEで確認する」というサイクルを確立しているという。製品や試作品を試験する際は、取り付け方法や計測手法などについて、いままで蓄積した結果から適切な方法を決定し、設計部門にフィードバックしている。シミュレーションと設計で密接な連携を取りながら、CAEをしっかりと設計検討に生かせているということだ。
同部門ではシミュレーションの活用度を向上させるため、週に1回程度、業務の一環として材料力学などの勉強会を設けているという。熱流体解析を始める人に対する菊池氏からのアドバイスが、「なるべく簡単なモデルから地道に計算を繰り返していってほしい」ということだ。「シンプルなものから複雑化させていくと失敗が少ない。最初から複雑だとさまざまなパラメータが入ってくるため、何が重要か分からなくなってしまうのです。基本から積み重ねていくことによって目に見える現象の本質を理解できるようになります」(菊池氏)。
熱流体解析でいま、力を入れている取り組みがフロントローディングだという。菊池氏はリーフに取り組む前から、「LED光源の設計でフロントローディングを実施したい」と主張してきた。今回は初めてのヘッドランプ向けLEDだったためフロントローディングの実施とまではいかなかったものの、「リーフのライトを作製するまでに解析に関する問題が一通り洗い出せたため、いまはまさにフロントローディングを実行するのによいタイミングだと思っています」(菊池氏)。
フロントローディングの導入は作業を前倒しで行っていくため大変さがつきものだが、同氏にとっては、「大変さ」よりも「助かっていること」の方が多いと感じるという。その理由は、最終的なしわ寄せがなくなったこと、データが軽いことだ。以前は、ほかの構造が決まってから熱の問題について検証することが多く、対症療法的な手法を取らざるを得ないこともあり大変だった。フロントローディングを実施することによって、温度上昇に関する問題を前もって根本的に排除できるため、無理がなくなった。
データについては、反射面の樹脂モデルなどはとても複雑で、詳細に設計されたCADデータそのままでは計算に使える規模ではない。設計初期のデータを使うと、まだ単純な形だが、解析をするには十分なデータなので都合がよい。
さらに将来は、試作レスにつなげることを目指しているという。試作では複雑な形状の金型を作るため高価になる。解析ツールの活用によって、さらなるコスト削減および設計の効率化を実現したいという。
さらにフロントローディングを突き詰めると、概念設計や意匠設計にまで入っていくことになる。「なるべくそういった段階から熱解析を導入して、打ち合わせの段階から『熱問題はありません』と言えればいいですね」(菊池氏)ということだ。
加藤まどみ(かとう まどみ)
技術系ライター。出版社で製造業全般の取材・編集に携わったのちフリーとして活動。製造系CAD、CAE、CGツールの活用を中心に執筆する。
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