欧米のシステマチックな技術も利用しつつ、日本人の開発した解析手法を交えて、日本人らしいシステムの模索をしている。
「自動車業界全体や国レベルで、CADやCAM、CAEなどモノづくりITについて、もっともっと真剣に、具体的に考えていかなければならない」――静岡理工科大学 理工学部 機械工学科 准教授の武藤 一夫氏は言う。
「モチベーションのある優秀な人材は、どんどん海外のメーカーに行ってしまう。そうすると、日本の技術やノウハウは海外にどんどん流出し、日本のモノづくりが崩壊してしまう……。私は作家の司馬 遼太郎氏が好きなのですが、あの方は日本を憂いて亡くなりました。いまの日本の製造業も、『ちょっと大丈夫かな?』って思っています」(武藤氏)。
武藤氏の研究内容は、CAEソフトの開発やFAオープンCNC知的制御、「3D4CN(3DCAD/CAE/CAM/CAT/Network技術)」、AE・超音波による故障診断技術など多岐にわたる。今回は、その中でも粒子法を使った流体解析(CAE)や、3D4CNやPLMによる日本らしい開発の模索について話を伺った。
同氏の教育・研究目的の1つは、中小企業も含めたメーカーの設計開発やプロセス改善や研究支援だけではなく、それぞれの企業でリーダーとして活躍できる学生の人財育成にもあり、さらに自動車技術会のフェローとしての社会奉仕にもあるという。
3D4CNとは、3次元ソリッドのCAD、CAE、CAM、CATの「4C」にネットワークの「N」を加えたシステムで、設計開発に関するデータを1カ所に集約し、CAD、CAE、CAM、CATをネットワークで一気通貫(ひとつなぎ)にするモノづくりの戦略的なツールで、PLMの中核となるシステム構想であるという。3文字英語ばかりが並ぶ欧米のシステムが、日本人にそのまま合うはずはなく、日本文化がしみこんだ、いわゆるニホンナイズされた(日本人のための)システムが必要であると武藤氏は考えている。
CAEは、3D4CNにおいて非常に重要な役割を担う。武藤氏が注目するCAEの中でも特に注目しているのは、東京大学 大学院工学系研究科 教授の越塚 誠一氏が独自開発した粒子法だ。日本人により開発された粒子法は、日本人の感性に合っているのかもしれない。
流体解析の従来手法には、有限要素法(FEM)、有限差分法(FDM)、有限体積法(FVM)など、さまざまな手法が存在し、研究者たちが採用する手法も、人それぞれである。
もともと、有限要素法で研究をしていた武藤氏が、粒子法と出会ったのは、2007年ごろだった。
「1980年の修士のころから、菊池先生(ミシガン大学 教授 菊池 昇氏)の本をかじり読みしつつ、東大の大型計算機を使ってリモートバッチして、有限要素法の手作りプログラムで計算していました。近年では、Marcの有限要素法で放電加工の熱的除去メカニズムの研究もしました。後、粒子法に出会ってからは、自動車のミッション系の部品における流れの研究をしています」(武藤氏)。
「見える化」することで、従来のFEMなどの格子法では解析できない難問が次々に解決できる点が、粒子法に目を付けた理由だと武藤氏は言う。
従来の有限要素法などメッシュ分割をする手法では、複雑形状が困難であり、自由表面に向かず、格子内でしか解析できないといった問題があった。一方、粒子法では、格子にとらわれず、複雑な形状も処理しやすい。粒子法では、格子を切るプロセスがなく、流体を粒子の集まりとして捉えて計算するためだ。粒子の動きがそのまま“流れの動き”となり、さらにその粒子の領域は“流れの領域”を表現する。
粒子法の特徴をまとめると、以下の4つである。
武藤氏は、自身がかかわった2つのギアとケースからなる複雑構造を有するファイナルドライブ(以下FDと略す)における流体(オイル)のかき上げの解析例を紹介してくれた。
以下の図、左にあるFR車の立体図の赤の四角で囲われた部分がFDで、拡大図が右の図のFD(実物)。解析に使用したFDは、車のデファレンシャル(以下、デフ)の一部位である。
この研究事例では、この図の赤丸に囲まれたFDのリングギアとピニオンギアによる流体のかき上げの解析を行っている。このリングギアとピニオンギアの2つのギアは、ハイポイドギア形状であり、2軸が同一平面上で交わらない「かさ歯車」(円すい状の歯車)となっている。
実験では、複雑な形状をしたFDモデルの送り油路と戻り油路での流速などを計測・測定するのは、困難であった。この研究では、油路の流速を計量でき、併せてグラフ化も容易に行えるようにしたという。
粒子法の解析ソフトウェアは、ここ数年間で、日本の自動車関連のメーカーを中心に、さまざまな工業分野に広まってきているという。そして、武藤研究室の学生たちも、粒子法による流体解析について学んでいる。
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