本気を出した中国、風力に次いで太陽光でも飛躍世界の再生可能エネルギー(1)(3/3 ページ)

» 2011年08月18日 13時20分 公開
[畑陽一郎@IT MONOist]
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太陽光導入量が一気に1.5GW追加か

 米国の市場調査会社であるIHS iSuppliは、今回の国家規模のFIT導入が太陽光発電の起爆剤になると指摘している。それによれば、新政策により、2011年と2012年に導入される太陽光発電が、以前の同社の予測よりも合計1.5GW*7)増えるという。

*7)日本国内の企業が2010年度に出荷した太陽電池セルとモジュールは約2.5GWであり、うち55%を輸出している。中国の伸びは、日本からの輸出分よりも多いことになる。関連記事:国内企業の太陽電池出荷量が対前年比1.5倍に成長

 従来の予測は、2011年の新規導入量が1GW、2012年が1.4GWだった(図2)。全国規模のFIT導入により、2011年の予測導入量が以前の予測よりも50%増えて1.5GWとなり、2012年の予測導入量は71.4%増加し、2.4GWとなった。

ALT 図2 中国の太陽光発電の導入予測 中国が全国版FITを導入する以前の予測値(青)と導入後の追加予測値(茶)。全国版FITによって、追加した容量は、0.5GW(2011年)、1GW(2012年)である。出典:IHS iSuppli

4つの課題が残る中国版FIT

 国家発展改革委員会には中国の経済政策を左右する力があるとはいえ、太陽光発電の導入目標は高い。制度がうまく設計できていなければ、目標の達成は難しい。ところが、今回のFIT政策には幾つかの課題が残るようだ。IHS iSuppliは4つの問題点を指摘した。

 まず、FITの買い取り期間について触れられていない。そもそもFIT制度は再生可能エネルギーの普及ペースを維持するための制度である。交付期間がはっきりしなければ、太陽光発電に投資する企業や個人は、投資をどの時点で回収できるのか計算できない。つまり、ビジネスリスクが増えてしまう。特に大規模で長期的な投資を計画しにくい。欧州を中心とするFIT先進国は買い取り期間を明記しており、ドイツやイタリアは20年、スペインは25年である。

 加えて、多くの国では投資促進や技術の向上を見越して、買い取り額を毎年低減することを定めている。買い取り額が下がっていくことがあらかじめ分かっていれば、なるべく早く設置を始めた方が、買い取り総額が多くなる。技術の進歩によって太陽光発電の価格が下がっていくことはこれまでの経験から分かっているため、買い取り価格を引き下げなければ、設置時期を先延ばしにした方が買い取り価格が増えてしまうことになり、投資を促すことにならない。中国の全国版FITでは、2種類の買い取り価格が定められているが、太陽光発電の着工日や運転日による区切りにすぎない。将来の買い取り価格が変化するかもしれないとあるが、これだけでは投資判断ができない。

 2番目の問題点は、FITの買い取り価格が2種類しかないことだ。中国にはさまざまな気象条件の土地がある。システムの形態も住居の屋根置きからメガソーラーまでさまざまな種類に分かれる。条件やシステム形態に合わせた買い取り価格を設定しないと、特定の地域や土地に投資が集中してしまう。例えば、南方の農地がメガソーラーに転換してしまう可能性がある。これは避けなければならない。欧州では、発電規模や設置場所に応じて区分を定め、買い取り価格を定めている。例えば、多くの国では屋根に設置したシステムの方が、メガソーラーよりも買い取り価格が高い。

 3番目の問題点は、買い取りに使う資金だ。計画している量の太陽光発電をまかなうには資金が不足するかもしれないという疑問がある。国家発展改革委員会が公開した文章によれば、FITの資金はRenewable Energy Tariff(RET)会計から支払われる。しかし、RET会計は2010年から赤字になっており、2011年には赤字幅が拡大する見込みだという。IHS iSuppliの予測によれば、この赤字は2014年まで続く。なぜなら、風力発電やバイオマス発電といった国家規模で導入を予定する他の再生可能エネルギー・プロジェクトに大量の資金が必要だからだ。

 4番目の問題点は、系統連系だ。中国の太陽光発電の特長は、系統に接続されていない独立型のシステムが多いことだ。中国では2010年に初めて系統連系型の容量が独立型を超えたという。FITによって中国全域、特に西部に太陽光発電熱が巻き起こるとIHS iSuppliは予測している。だが、西部は系統連系に課題がある。電力を大量に消費する沿岸部と無関係な太陽光発電が増えても、政策上の意味は薄い。

 中国政府が、今後、FIT政策についてどのような追加情報を公開するのか、それによって中国の太陽光発電がどの程度成長するかが決まるだろう。


 次回は、インドの状況を紹介する。


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