社内のコンセンサス形成不足が、プロジェクトがスムーズに遂行できない原因となり、結果的に行き詰まらせてしまうことがあります。3番目の失敗事例は、製品開発マネジメントシステムを導入する過程において、起案部門と実行部門のコンセンサス形成不足が理由で、道半ばで頓挫したプロジェクトです。
この改革プロジェクトの目的は、製品開発のリソース活用状況を可視化し、新規案件の受注可否と納期回答の精度を高めることでした。改革プロジェクトは経営幹部の指示により結成されました。この指示を受けて、技術管理部門は、製品開発プロジェクトの状況を把握するために、プロジェクト管理ソフトウェアを導入しようと考えました。技術管理部門は、複数のベンダーからシステム提案を受領し、その中の1社の提案を採択しました。そして、製品開発部門のメンバーに協力を依頼し、導入トライアルを実施しました。
しかし、製品開発状況の見える化(可視化)は確かにできるが、製品開発部門の進捗(しんちょく)情報の登録に負荷が掛かることが判明しました。さらに、このプロジェクト管理ソフトウェアを利用すると、計画変更時に関連するほかの開発案件の計画との整合性を逐次取る必要があり、想定していた以外の調整も必要であることも判明しました。
この報告を受け、製品開発部門のリーダーは反発しました。リーダーの指摘は、確かに効果はあるが、逆に製品開発部門のこのシステムに対する登録工数や計画のメンテナンス工数が増加する、という点でした。この製品開発部門のリーダーは、この改革活動の企画段階において、ほとんどこのシステム導入の計画や機能、業務の変化点に関する話を聞いておらず、このタイミングで初めて内容を知らされたのです。
プロジェクトの企画部門と実行部門の間のコンセンサスの形成不足が、プロジェクトを途中で頓挫させる原因となった事例です。
最後に、効果の測定と成果の発信不足により、改革プロジェクトが形骸化した事例をご紹介します。この改革プロジェクトは、デザインレビューを強化し、設計品質を高めることを目的としていました。
このプロジェクトチームが提案した新しい業務プロセスは、次のようなものです。
プロジェクトチームは、この業務プロセス成功のキーは不具合データベースの鮮度であることを、理解していました。
この改革プロジェクトが継続中は、プロジェクトチームを中心としたプロジェクト会合が定期的に開催されており、不具合データベースおよびチェックリストは定期的に更新され、その鮮度は保たれていました。しかし、プロジェクト発足して一年後、改革プロジェクトチームは解散し、不具合データベースの更新は、利用部門主体の定常運用に移行しました。
その結果、残念ながら不具合データベースの更新の頻度は、次第に少なくなりました。それに伴いユーザーはこの不具合データベースやチェックリストを使ったデザインレビューを実施しなくなりました。データベースが最新ではないので、情報が信用できない、という理由です。その後、この新業務プロセスは形骸化し、元の有識者中心のデザインレビューに戻ってしまいました。
事後分析によると、この事例の問題は、改革活動による定量的な効果(不具合の定量的な削減トレンドなど)を測定していなかった点と、ビジネス上の成果が一部の関係メンバーの活動間だけで共有されており全社的に共有されていなかった、という点でした。非常によい活動であるにもかかわらず、効果の測定と周知不足が、経営者や社員の関心を少なくし、結果的に形骸化を引き起こした事例だといえます。
「じゃあ、どうしたら同じ失敗にハマらないようになるの?」
という疑問をお持ちのことでしょう。次回、本連載の最終回では、ハマらないポイントをご紹介します。お楽しみに。
三河 進(みかわ すすむ)
NECコンサルティング事業部
(http://www.nec.co.jp/service/consult/services/07.html)
NCPシニアビジネスコンサルタント
システムアナリスト(経済産業省)
全能連認定マネジメントコンサルタント
PMP(米国PMI)
精密機械製造業、PLMベンダ、外資系コンサルティングファームをへて、現職。
専門分野は、開発設計プロセス改革(リードタイム短縮、品質マネジメント、コストマネジメント)、サプライチェーン改革(サプライヤマネジメント)、情報戦略策定、超大型プロジェクトマネジメントの領域にある。
自動車・電機・ハイテク・重工などのPLM・SCMに関する業務改革プロジェクトに従事中。
論文「モジュール化による設計リードタイムの大幅短縮」で平成20年度の全能連賞を受賞。
本記事は執筆者の個人的見解であり、NECの公式見解を示すものではありません。
世界市場を見据えたモノづくりを推進するには、エンジニアリングチェーン改革が必須。世界同時開発を実現するモノづくり方法論の解説記事を「グローバル設計・開発」コーナーに集約しています。併せてご参照ください。
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