自動車のブレーキシステムの改善をテーマに、どのように工学的矛盾を定義し、解決アイデアを出していくのか解説する。
TRIZは、「矛盾の解決」という考え方を重視します。矛盾があるから、一見解決が難しそうに見える。そこに踏み込んで、先人たちが行ってきた解決方法を適用してみようという発想です。
TRIZでは、以下の3つの矛盾が存在すると考えます。
この中で、1番目の管理的矛盾は、“矛盾”という表現を使っているものの、厳密にいえば「目的を達成する方法が分からない」という状態で、果たしてそれが「矛盾」といえるのかどうか疑問ではありますね。これについては、実現手段を探すという意味で次回取り扱います。
さて、技術的な問題で最も多いのは、2番目の工学的(技術的)矛盾でしょう。例えば、「掃除機の吸引力を向上させるために集じん力を上げたら、取り扱いが不便になった」とか、「洗濯機の洗浄力を向上させるために回転力を上げたら、布地の痛みが早くなった」というものです。まさに、技術者が日常的に接している「問題」と称するものですね。
また、3番目の物理的矛盾は、例えば上の2つの矛盾を「集じん力を上げるためには、掃除機の吸引力は強くなければならないが、取り扱いやすくするためには吸引力は弱い方がよい」「衣類の汚れを落とすためには洗濯機の回転力は強い方がよいが、布地を傷めないためには回転力は弱い方がよい」というように言い換えたものです。すなわち、2つの目的を達成するためには、その実現手段(システム)に対立する状態が求められるというものです。この物理的矛盾の解決方法には「分離の原則」という考え方を使うのですが、まず工学的(技術的)矛盾の解決方法を習得した後の方が分かりやすいと思いますので、今回は工学的(技術的)矛盾の解決方法に絞って書きたいと思います。
工学的矛盾は、図1のようなフローを基本にして解決アイデアを出していきます。そこで使うツールは、「36の特性パラメータ」「矛盾解決マトリクス」「40の発明原理」の3つと、皆さんの問題解決に対する「熱意」であり「執念」です。
前回明確にした「根本原因」が引き起こしている有害な現象と、「そのシステムが目的とする主機能との対立」を工学的矛盾として定義した後、それらを39の特性パラメータを使って抽象化します。つまり、私が言っている抽象化とは、自分の問題の工学的矛盾を、TRIZの39のパラメータに言い換えるということなのです。抽象化するとほかの分野の知恵を基にした解決策のヒント、つまり40の発明原理が汎用的に利用できますから、それらを使って解決策のアイデアを考えるのです。ただ、40種類全てをヒントにするのは大変だというわけで、矛盾解決マトリクスが活用されることになります。これらのツールはいずれも後述します。
では、前回の続きとして今回も「自動車のブレーキシステムの改善」をテーマにして、どのように矛盾を定義して解決アイデアを出していくのか、説明していきましょう。
まず、問題の本質化から、根本原因の1つを「ブレーキパッドが小さいから」としましょう。もちろん多くの場合、根本原因は複数あるのが常ですからほかの要因を取り上げても構いません。ぜひ、皆さんで別の根本原因を取り上げて工学的矛盾を作ってみてください。要は、その要因が本当に問題解決につながるものと想定できるのかであり、問題定義力が問われていることになります。
話がそれましたが、「ブレーキパッドが小さいから」を根本原因とした場合、機能-属性分析からはブレーキパッドの周りにある部品や属性が何であるかが分かります。
それらはピストンでありキャリパーという部品であり、それらのレイアウト的なスペースや形状が関連していると見て取れます。一方で、原因-結果分析では、ブレーキパッドが小さいことで引き起こされる有害な結果が明示されています。それは、「ブレーキパッドの放熱性能が悪い」ということです。つまり熱がこもってしまい温度上昇を引き起こしてしまうという風にもいえますね。これらの情報を基に、ブレーキパッドの放熱性に関する矛盾を作ってみます。図2を参照ください。
すなわち、以下のように定式化できますね。
これは、ブレーキシステムの個別事象における矛盾ですから、このままではTRIZを使うことができません。これを39の特性パラメータのどれかに言い換えることで抽象化します。
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