オートデスクの解析ソフトウェアの2大新製品の詳細情報の紹介。設計開発を大幅短縮するための新機能が搭載された。
オートデスクは、マルチフィジックス解析ソフトウェア「Autodesk Simulation 2012」(2011年4月15日から)、樹脂流動解析ソフトウェア「Autodesk Moldflow 2012」(同年4月8日から)の2製品の販売を開始する。
同社では、設計製造の上流から下流に至るまでを3次元データで一本化することで、製品開発の早い段階で問題を解決しようというデジタルプロタイプツールの提供を目指してきた。解析・シミュレーションは製品の出来具合を直接的に予測するツールであり、デジタルプロトタイプの流れが、うまくいくか行かないかを左右する基幹ツールであると同社はいう。
2011年2月17日に同社が発表した、流体解析ソフトウェア CFdesignの開発元 米ブルー リッジ ニュメリックス(Blue Ridge Numerics)社の買収は同年4月30日に完了する予定とのことだ。同社の組織がどうなるか、オートデスク製品にその技術がどう取り込まれるのかなど、詳細な方針はこれから決まるという。
同社の3次元CAD「Autodesk Inventor」(以下、Inventor)に付属するCAE機能は、とにかく「設計者が短時間で分かりやすく強度計算を行うこと」に特化したものであり、静解析の機能がメインだ。一方、Autodesk Simulation 2012は、非線形解析や疲労解析解析など高度な解析を望むユーザーを対象としている。
「Autodesk Simulation」は、「Autodesk Algor Simulation」(以下、Algor)の後継バージョンだが、単なる名称変更だけではなく販売形態も変えた。Algorシリーズはもともと4種類だったが、2012から以下のように、2種類のソフトウェアにまとめた。
後者のAutodesk Simulation Multiphysicsは、Autodesk Simulation Mechanicalの機能を包括した上位版だ。
Autodesk Simulationは、同社の「AutoCAD」やInventorなどと同様に、リボンUIを採用。アイコンの中から必要なだけピックアップできるよう、分かりやすく配列を変更した。
「これまでは、トレーニングを受けたり長年使ったりしないと、使いなれないアイコン構成だった。2012版ではボタンが非常にすっきりし、ユーザーが必要なアイコンをフロントに出し、必要でないアイコンを裏側に隠すようにした」(同社 製造ソリューション ビジネス開発 デジタルシミュレーション テクニカルマネージャ 八木隆行氏)。リボンUIに並んだアイコンを左側から順番に選択していけば、おおよその設定が終わるようになっているという。それぞれの手順で、もう少し細かい設定をしたい場合には、プルダウンメニューでさらに深い層の機能を取り出せる。
データ管理ソフトウェア「Autodesk Vault」(以下、Vault)、樹脂流動解析ソフトウェア「Autodesk Moldflow」(以下、Moldflow)との相互運用性も高めた。
Moldflowで解析した射出成形プロセス中の残留応力分布と線膨張係数分布のデータを渡せるようにすることで、樹脂流動における強度分布の評価精度を高めたという。例えば、樹脂の流れ具合により材料の中に含まれる繊維材の配向が変わることで、部品の強度分布にバラツキが出る。Moldflowの従来のバージョンで、その検証をする場合は、ヤング率分布のデータだけしか渡せず、十分な結果が得られなかった。
またAutodesk Vault 2011および2012をサポートし、Autodesk Simulationの解析データをVaultにチェックインあるいはチェックアウトが可能だ。Autodesk SimulationとVaultとの連携では、さまざまな解析データを分かりやすく、検索しやすくする保管および管理することが可能とのことだ。
さらにパフォーマンスも大幅に改善。解析計算だけではなく、有限要素解析において多くの時間を割かれる剛性マトリクスの構築プロセスについても並列化したことで、計算速度を大幅に高めたという。ボディ同士の接触については、「Autodesk Algor Simulation 2010」と比較して8割も改善したとのことだ(以下、画像参照)。
「解析計算では繰り返し計算が発生する。この繰り返し計算の並列処理についてはもともと対応していた。計算の繰り返しごとに剛性マトリクスを構築するが、今回のバージョンから剛性マトリクス算出そのものも並列処理可能」(八木氏)。
設計者の解析といえば、設計のしやすさ以上に、計算時間の短縮への期待も大きく、計算処理の並列化は解析ツールの中で必須になってきているという。
Moldflow 2012では、「Autodesk Moldflow Adviser」(基本版)および「Autodesk Moldflow Insight」(上位版)ともに、リアルタイム表示できる樹脂充填のプレビュー機能を追加し、最適なゲート位置を素早く検討することを可能とした。
従来の樹脂流動解析の充填検証は、3次元CADからモデルをMoldflowへ読み込み、メッシュを切り、成形条件を細やかに設定するという流れが通常だった。リアルタイム充填プレビューは、射出位置を示すマークを3次元モデル上に置くだけで樹脂充填のプレビューが表示が可能だ。射出位置を変える、あるいは増やして検証したい場合は、マークをずらせば、即、結果反映する。
Moldflow 2012には3次元CADのアドイン版もあるが、こちらは3次元CADを使う設計者に配慮された機能を搭載している。自分のモデリングした形状の充填プレビュー機能のほか、例えば薄肉過ぎてショートが起こる、などの成形不良が起こりやすい形状にあらかじめワーニングを出す機能(フィーチャチェック)も追加した。この機能で、3次元CADユーザーは、形状を変更しながら、成形性や成形不良をリアルタイムに検証することが可能だ。このアドインは、Inventor、Inventor LT、Pro/ENGINEER(PTC)に対応している。
同製品には新たに実験計画法の機能も加わった。従来バージョンだとは何十通りのパターンを解析しないといけなかった成形不良について、最適な解析パターンだけを自動的に数パターン程度に絞り込むというもの。ユーザーは、チェックボックス式の設定で、着目したい設計パラメータや成形不良を選択すればいいだけで、実験計画法そのものの深い知識は特に不要だ。
同社の検証によれば、この機能を使うことで、従来バージョンで20時間ぐらい掛かっていた解析が4時間ほどで終わるとのことだ。ネットワーク上の複数のPCで並列計算させれば40分ほどで済んでしまうという。
「数十の解析パターン全ての3次元分布図を導いたうえ検証するというのは、現実的に遂行は無理なため、設計段階で抜本的な問題解決ができないままとなってしまい、製造現場の技術や努力に依存せざるを得なかった。Moldflow 2012では、設計製造の時間を大幅に短縮するだけではなく、製造の精度も効率よく高めることができる」(八木氏)。
またダイレクトモデリングツールの「Autodesk Inventor Fusion 2012」をMoldflow 2012にも同梱し、成形しながらの形状検討や検討をしやすくした。
Moldflow Insight 2012について、同社は樹脂材料の繊維方向予測機能の改良を挙げた。具体的には、短繊維入り材用「RSCソルバ」、長繊維入り材用ソルバ「ARD−RSCソルバ」を追加搭載したという。長繊維材については、主に自動車業界で非常に注目されていたことから、専用ソルバの開発に取り組んだとのことだ。
もう1つ、金型非定常冷却シミュレーションでは、時間経過に伴う温度変化の検証を可能とした。「温度にまつわる成形不良は、どのタイミングで発生しているのかをつきとめなければ、抜本的解決に至らないことが多くなった。最近はモノづくりが非常に難しくなり、部品も薄肉軽量化を求められる関係で発生したニーズ」(八木氏)。
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