米国のある流体解析技術者が、こんなジョークをいった。
数学者と、法律家と、流体解析(CFD)技術者が、パーティ会場で歓談しているところに、1人の婦人がやってきました。
1+1はおいくつ?
「2です」
2にもなるかもしれないけれども、3にもなるかもしれないですね」
ところが、CFD技術者は、こう答えたのです。
あなたはどんなお答えをお望みですかね?
水野氏は、こんな話を紹介してくれた。流体解析の難解さを表現したアメリカンジョークだ。
「流体解析の専門家に、それ本当に正しいの(実際の現象なの)? と尋ねれば、『イエス』と答える人は絶対いませんよ」(水野氏)。特に、乱流の解析、その中でも剥離(はくり:物体表面の離れたところで、流れが大きく乱れること)の解析となると、極めて難解だ。乱流解析の専門家、自らがそう言うのだ。「流れの現象自体が非常に難しいのです。決して、数値計算が悪いわけではないのですよ」。
「壁に空気の流れが当たれば曲がるとか、その程度なら、簡単に実現象とぴったり合った解析ができます。しかし翼の界面の剥離――よく『はがれる』というのですが――例えば風車で剥離現象が起きると、翼の回転速度が、ガクッと落ちてしまうのです。乱流の中、風車の翼角度をどう調整するかで、はがれ方の特性が全然違ってきます」(水野氏)。
「乱流」や「層流」という言葉自体は、100年以上前からある。それらの現象は、昔から、世界中の物理学者たちが熱心に研究し続けているが、いまだに解明され切れていない。CAEソフトでも、乱流モデルがいくつも開発されているが、「これを使えば、すべて正確に答えが出る」というものはまずない。乱流モデルの問題だけではなく、メッシュの切り方も大きく左右してしまう。
風車の翼の性能評価については、風車のメッカといわれる米国のサンディア国立研究所のWebサイトから実験結果をダウンロードしてきて、それに基づいて評価しているとのことだ。
「サンディアの実験結果は、国際的に評価されているものです。しかしそれにしても、風車の実験結果というのは、非常に微妙なものです。翼の形状にほんの小さなでっぱりをうっかり付けてしまっただけでも、大きく結果が変わってしまうのですから。計算結果がサンディアのデータと解析結果がぴたりと合えば絶対OK、そういう判断をするのが適切であるとはいえないでしょう」(水野)。サンディアのデータも、あくまで評価の指標であるとしている。
乱流工学の世界では、実験や計算結果について、ある程度割り切りをして評価をするしかないということになる。だからといって、いまの解析技術が、「使える」と考えるか、あるいは「使えない」と考えるか、それは、あくまでデータの扱い方次第、使う人次第である。すでに散々いわれているが、「CAEはあくまで道具(ツール)」である、ということに尽きる。
水野氏の答えは、当然、「十分、使えます」である。
同校の縦軸風車は、今後、フィージビリティスタディ(実験)と、流体解析結果を合わせ込んでいきつつ、実用テスト風車を完成させていくとのことだ。
「2011年中に、高速道路のサービスエリアに、3kW(電力)のテスト風車を実際に置いてみて、デモも兼ねた実験を行う予定です。いまは、そのテストサイトを探している最中です」(水野氏)。
このテスト風車は、直径3.2m程度の大きさで、約3kWの発電が可能だという。今後の水野氏たちの目標は、風車のサイズをどんどん大きくすること。現在のプロペラ型風車の発電容量は、最大のもので2MWぐらいといわれている。縦軸風車も、そのレベル相当まで育てていきたいという。
この縦軸風車がビジネスとなり、そして企業が新たに生まれることになれば、工学院大の卒業生たちもそこで活躍していくことになるだろう。
流体解析というニッチな技術を使って、トンネル換気シミュレーション、縦軸風車開発をビジネス化しようと奮闘し、社会発展への寄与ばかりではなく、学生たちの未来まで切り開いてしまう水野氏。それら活動は、今後どのように広がっていくのか。
経済不況、企業の求人数減少による就職難、学生たちの理系離れ、などモノづくり業界にとって気が重くなる話題が多い中で、希望の光となってくれそうだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.