EDAツール活用法を知る連載。今回は具体例として、アナログ回路シミュレータSPICEを使ったシミュレーションを紹介する
第1回の記事では、なぜEDAツールが必要なのかということについて俯瞰(ふかん)的に見ていきました。今回はもう少し具体的にアナログ回路シミュレータSPICEを使ったシミュレーションの例を紹介しましょう。
SPICEは、作成した回路が設計者の考えているとおりに動作しているかどうかPC上でシミュレーションを行って確認するためのソフトウェアです。ここではSPICEプログラムの1つ、Cadence社のPSpiceを使ったシミュレーションを例に解説します。
近ごろの電子機器は小型化に向かう傾向にあります。それに歩調を合わせて回路基板もますます小型、高密度化を余儀なくされてきました。その結果、基板上に搭載する部品そのものも表面実装化され、小型化されました。おそらく、これからもこの傾向は変わることなく進んでいくのは間違いありません。
もはやオシロスコープにより波形を観測しようにも、回路基板上の任意のポイントにプローブの先を接続することもできなくなってきています。このような高密度実装基板ではテスト中に誤って表面実装されたOPアンプを壊した(もしくは、ひょっとして壊してしまったかもしれない)とき、このOPアンプを交換することなどは大変な作業です。
一方、シミュレータではOPアンプは壊れたり劣化したりしませんから、そのまま何度でも使えます。さらに別の機種のOPアンプに変更することも簡単です。また、回路中の抵抗、コンデンサなどの値を順次変更して回路がどのように変化するのかを観測するのもシミュレータでは容易です。
また、スイッチング電源のように商用電源を扱う回路などは実際の基板に手を触れることやプローブの先を接続するのが危険なことがあります。このようなとき、回路シミュレーションで細部の動作の確認を行っておけば、設計どおり動作しているかどうか回路細部の確認が行えますし、同時に多くの試作基板を作成することがなくなるので設計/開発期間の短縮が期待できます。
PSpiceでの回路シミュレーション例を紹介しましょう。図1が今回設計した回路です。この回路は図1の左端の“IN”端子に入力される電圧がAC100VかAC220Vかを判別する回路です(回路はかなり簡略化してありますので、実際の設計には絶対に使用しないでください)。
この回路ではまず、入力された交流電圧をダイオードD1(CMG03)とコンデンサC1(0.1μF)で整流し、この信号をアナログICで扱える程度の低い電圧に分圧します。分圧された信号は電圧コンパレータU1(LM111)のプラス側の入力端子に加えられています。一方、コンパレータのマイナス入力端子にはツェナ・ダイオードにより設定された基準電圧値(ここではDC4.7V)が加えられています。
もし、プラス側の入力端子電圧がツェナ電圧4.7V(マイナス側の入力端子)より高ければコンパレータの出力は“H”(=5V)となり入力電圧がAC220V、また低ければ“L”(=0V)となって入力電圧がAC100Vであると判別します。この回路では前もって回路計算を行い、入力電圧がAC170Vを境にコンパレータが“H”か“L”に切り替わるように設計してあります。
さて、この回路が正しく動作するかをSPICE(PSpice)でシミュレーションして確認しましょう。シミュレータでは入力信号のところを工夫し、0秒から1秒の間で(AC)0VからAC250Vまで徐々に増加させます。その後、1秒から2秒までは逆に徐々に減少させて(AC)0Vに戻すように変更し、このとき出力の変化を確認します。現実にはスライダックなどにより入力電圧をAC100Vから徐々にAC250Vに変化させたのと同じです。
このときのシミュレーション結果を図3に示します。シミュレーションを行った結果を調べると(PSpiceに内蔵しているカーソル機能を利用して確認できます)、確かに設計どおりAC170V付近でコンパレータが切り替わっていることが分かります。
図3の波形を見ると、上段の入力波形と下段の出力波形のみ確認した限りではこの回路は設計どおり正しく動作していると判断できます。ただ、中段の波形を見てください。入力電圧が大きくなってくるとAC220V付近でのコンデンサC1の両端の電圧の波形が何だか正しくなさそうです。少し予想外な結果です。
回路中の各部品を少し調べてみると、原因はどうやらダイオードD1(CMG03)が怪しいように思われます。そこで、D1を別のダイオードに代えてシミュレーションを行ってみます。
入れ替えるダイオードは逆方向の耐圧が無限大に設定されている特殊なもので、世の中には存在しないダイオードです(PSpiceではDbreakというパーツです)。いい換えれば、このダイオードは両端間に逆方向電圧をいくら印加しても壊れないダイオードということになります。
このようなダイオードへの変更が一瞬にして行えるのがシミュレータのいいところです。
このときのシミュレーション結果を図4に示します。今度は異常な波形は観測されず予想どおりのきれいな波形となりました。
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