アナログ回路シミュレータによる回路シミュレーションの実際電気回路設計者向け 実践! EDAツール活用法(2)(2/2 ページ)

» 2010年04月21日 12時00分 公開
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2.6 回路不具合部品の推測

 これまでのシミュレーションにより、この異常現象はこの回路上のダイオードD1(CMG03)が最も怪しいと思われます。そこで、このダイオードの逆方向電圧に対する耐圧をもう一度確認してみましょう。

 このダイオードのデータシートをもう一度確認してみると、データシートの絶対最大定格の項にある「ピーク繰り返し逆電圧」は(DC)600Vであることが分かります。この値は「このダイオードにこの電圧値以上の逆電圧が繰り返し加わると破壊されてしまう」という電圧値です。今回設計した回路で想定される最大入力はAC220Vのときなので、ダイオードの耐圧が600Vもあれば十分余裕がある気がします。

 少し勉強した人ならAC200Vという数値はRMS(実効値)ではないかといわれるかもしれません。確かにそのとおりです。そこでピーク電圧をあらためて計算してみると、ピーク電圧は220V×√2=311Vだということが分かります。それにしてもダイオードの耐圧600Vにはまだまだ十分な余裕があります。

2.7 不具合の原因

 結論から先にいうと、この回路をよく見ていると分かりますが、このダイオードの両端にはやはり、(DC)600V以上の逆方向電圧が掛かっています。この回路では計算どおり、ダイオードD1とコンデンサによりAC220Vでのピーク電圧311Vが加わります。ここまでは予想したとおりです。

 しかし、この交流信号がマイナス側に振れたとき、ダイオードのカソード側(コンデンサに接続されている側)は+311Vに保持されたままアノード側(AC入力側)は最大−311Vまで負側に振れてしまいます。このとき、ダイオードに掛かる電圧は差し引きされて最大622Vとなってしまいます。

 一方、ダイオードD1の逆方向電圧は600Vなので、このダイオードの絶対最大定格600Vを超えてしまいます。その結果、このダイオードは壊れてしまうことになります。

2.8 不具合予想の確認

 この現象を見るためにダイオードを耐圧が無限大のダイオード(Dbreak)にしたままダイオードの両端の波形を観測してみます。その結果が図5です。この結果を見るとやはりこのダイオードの両端にはAC220Vの電圧が入力されたときに最大600V以上の逆電圧が印加されていることが分かります。

 厳密にいうとコンデンサC1に保持されているチャージは高抵抗R2(=10MΩ)とR1(=200kΩ)を通してグラウンドに少し流れ出しますので、シミュレーション結果ではピーク電圧は計算値(622V)よりやや低めの619Vとなっています。

photo 図5 入力電圧(上段)とダイオードのアノード―カソード間に印加されている電圧波形(下段)
入力電圧がAC220Vのときダイオードの両端には最大約619Vの電圧が印加されている

2.9 現実のダイオードとシミュレーション・モデルの違い

 現実の回路ではダイオードの逆耐圧を超えたところで破壊してしまい、二度と元には戻ることがありません。一方、回路シミュレーションではダイオードが破壊されても(厳密にいうとダイオードがブレークダウン現象を起こしても)、印加される電圧が低くなれば再び正常なダイオードに復帰して動作し始めます。この結果、シミュレーションでは独特な波形が観測されることになります。

2.10 シミュレーションで分かったこと

 このシミュレーション結果から分かったように、この回路で使用するダイオードは実は622V以上の耐圧が必要です。現実では入力電圧の変動の余裕も考慮すると700V以上、さらにディレーティングを考慮して耐圧800Vから1000V程度のダイオードを選択しなければいけません。

 回路上でD1に耐圧が800Vのダイオードを使用したときのシミュレーション結果を図6に示します。

photo 図6 D1を耐圧が800Vのダイオードに代えてシミュレーションを行った結果
この変更でも問題なく動作したことが分かる

 耐圧が800Vのダイオードを使ったとき、入力電圧が何Vのときにダイオードが壊れるかという計算は難しくありません。一度試してみてください。

3. 設計の盲点

 もし、この設計のまま製品化されても入力と出力間だけを確認していると動作は正しいと判断してしまいます。その結果、このような潜在的な不具合は見過ごされてしまうでしょう。

 今回のようにシミュレーションを行うことにより挙動不審な波形を観測できました。現実のダイオードではデータシートの絶対最大定格の欄に記載されている電圧値より大きめ(高め)の耐圧を持たせてあることがほとんどで、AC220Vまたはそれより少し高い電圧くらいでは壊れないことがあるかもしれません。このようなときダイオードに余裕はまったくない状態で動作します。つまりこの回路は入力電圧がAC220Vのとき、データシートに書かれている最大定格を超えてずっと動作し続けることになりますが、これほど恐ろしいことはありません。

 もっとも、原点に戻ってもう一度回路を考察してみると、本当にこの回路設計でいいのかも再検討の余地があります。少し回路を変えればこんな高耐圧のダイオードなど使うこともないかもしれません。

4. ストレス解析のシミュレーション

 今回はアナログ回路シミュレータSPICE(PSpice)を使っての回路検証の例を紹介しました。さらに確実に調べる手段としてPSpiceについてはPSpice Advanced Analysisオプションというソフトウェアがあります。このソフトウェアに含まれる機能の1つであるSmoke解析を行えば、回路上のすべてのパーツに対し過電圧が加えられていないか、過電流が流れていないか、さらには消費電力が最大値を超えていないかを自動的にチェックして分かりやすく表示してくれます。

5. まとめ

 EDAツールをうまく使うことで、実験がなかなか行えない回路や、出力信号のみ観測してつい見逃してしまいがちな部分や考え違いの回路部分についても簡単に調べることが可能です。

 回路設計を行った後、一度シミュレーションにより不具合点を洗い出し、その後で試験基板での実際の確認を行えば、高性能で高品質の製品が効率よく設計できます。いいかげんな設計は製品出荷後、設計段階、試験段階で確認を怠った部分から必ず破たんします。製品が世に出る前にシミュレータを活用して、事前に不安なポイントをすべてツブしておくと安心です。

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