縦置き直6サイコー!? シリンダ(気筒)の基本いまさら聞けない エンジン設計入門(3)(3/3 ページ)

» 2008年03月21日 11時00分 公開
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シリンダの配列

 排気量や気筒数が決まれば、次に「シリンダの配列」を考える必要がありますね。現在の車(軽自動車を除く)で最も多く採用されているのは「直列4気筒」です(右下、図1)。

 直列4気筒が最も多くの企業で採用されている理由も、現在の市場が車に求めていることを考えてみればすぐに理解することができます。

 まず車を使用される方が求める基本的な部分が、

  • 実用的
  • 安く手に入る
  • 扱いやすい
シリンダ壁の油膜保持用溝 写真3 シリンダ壁の油膜保持用溝 図1 直列4気筒と直列6気筒

という『日常の道具』としてのニーズであることを前提にすれば、エンジンの総排気量は1.5リットル前後が一番適切です。

 その排気量を基に、1気筒当たりの排気量による各部のバランス、コストを計算してみると自然に直列4気筒にたどり着くはずです。

直列4気筒のメリット

 直列4気筒のメリットは、まず全長の短さが挙げられます。エンジン本体が短いということはそれだけエンジンルームを小さくすることができますので、その分車内のスペースを広く取ることが可能です。エンジン本体が小さいことで比較的自由なレイアウトが可能ですので、衝突安全という観点でも有利です。

 また直列4気筒はほかの多気筒エンジンに比べて部品点数が少なくて済むので、比較的低コストでエンジンを製造することができます。さらに直列4気筒は冷却損失が少ないレイアウトですから、燃焼効率が良くなり、燃費面でとても有利です。これらは全て、ユーザーのニーズに見事に合致していると考えられますね。

 ただし直列4気筒はエンジン回転によって生じる「二次慣性力」というアンバランスがありますので、それを打ち消す「バランスシャフト」を設ける必要があります。


*記事後半で、二次慣性力やバランスシャフトに関する記述あり

6気筒の変遷

 3リットル以上のエンジンなどは、先述したように4気筒エンジンでは対応できません。1気筒当たりの排気量が600ccを超えてしまい、さまざまなロスの方が大きいからです。となると、5気筒以上のエンジンが必要となりますね。

 あまり聞き慣れませんが、一応「5気筒エンジン」というのも存在しています。しかしエンジン回転によって生じるアンバランスが多く、今後もあまり採用されないでしょう。

 現在は一部のメーカーでしか採用されなくなった「直列6気筒」ですが、エンジン単体で見れば一番理想的ともいえるバランスの良さがあります。まず直列4気筒などで発生する二次慣性力が理論上発生せず、音振性能に関しては断トツで優れているといえます。ただ直列6気筒はその長さ故にエンジンルームを長くする必要があり、レイアウトという面で多くの制約を受けてしまいます。

 しかし過去に多くの車に採用された経緯もありますし、いまさらレイアウトの面で制約を受けるからという理由だけでは、どんどん「V型6気筒」へ移行されていることの説明材料にはなりません(図2)。

V型6気筒 図2 V型6気筒

 実は直列6気筒がV型6気筒に移行されている大きな理由の1つが「衝突安全性の確保」なのです。

 現在の衝突安全性の確保における考え方は、正面衝突をしてしまった際にエンジンを下方向に落とし込み、車内にエンジン本体が入り込んでくることによる人的被害を防ぐというものです。事故が発生した際の人命確保を考えれば、居住スペースの確保が最も大切だからです。

 ここで1つ断っておきたいのは、直列6気筒の搭載方法は「縦置きレイアウトでFR駆動*2」が前提です。横置きとすると車両の横幅が必然的に長くなり、現実的ではないと考えられるからです。

*2 縦・横という表現は、車両進行方向に対するクランクシャフトの方向です(筆者)

 逆にV型6気筒だと、多少エンジンの幅が広くなってしまいますが、直列6気筒のように極端な長さのエンジンではなくエンジンルーム内に比較的余裕を持たせレイアウトすることが可能です。

 従ってエンジン周辺に十分なスペースを設けることができ、衝突安全性の面で有利であると考えることができますね。

 また違う視点で見ると、V型6気筒は直列6気筒同等に縦置きFR駆動が可能であることに加えて横置きFF駆動も可能となります。

 つまり、1つのエンジンを開発することでさまざまなレイアウトの車に流用することが可能となりますので、エンジン開発費などを極力抑えたいメーカーとしてはとても重宝するエンジンとなるのです。

 余談になりますが、BMWは直列6気筒にこだわり続けてきました*3。エンジンとしてはとても理想的であることは先述しましたが、実際にほかの量産車と同等の衝突安全性やレイアウトを実現できているのは「徹底的な軽量コンパクト化」に全力を注いでいるからだと思います。ただしそれに伴う開発費やコストは一般的な大衆車とは比べものになりませんので、比較的高額な車両価格となっているのは当然だといえます。

 「やっぱりエンジンは縦置き直6が最高だぜ!」

という熱心なファンの心を虜(とりこ)にしてきた心意気には、心から感服できますね。

*3 2008年3月17日、BMWが発表した「M3セダン」に関しては、直列6気筒からV型8気筒へ置き換わっています。詳細は以下、関連情報参照のこと(編集部)


 シリンダに関しては現在に至るまでにさまざまなレイアウトが採用されていることから、キリがないほどさまざまな考え方やノウハウが集積されている部品です。今回筆者がお話しした内容も非常に基本的な部分であり、ごく一部でしかありません。

 今後も市場が車に求めてくるニーズはどんどんハイレベルになってくるでしょうから、いままでにない発想によって新たなシリンダレイアウトを見いだしてほしいと思っています。

 またその発想の基本として、今回のお話が少しでもお役に立てることを筆者は強く願っております。



 次回は「コンロッド」について詳しく解説する予定ですのでお楽しみに! (次回に続く)

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Profile

カーライフプロデューサー テル

1981年生まれ。自動車整備専門学校を卒業後、二輪サービスマニュアル作成、完成検査員(テストドライバー)、スポーツカーのスペシャル整備チーフメカニックを経て、現在は難問修理や車輌検証、技術伝承などに特化した業務に就いている。学生時代から鈴鹿8時間耐久ロードレースのメカニックとして参戦もしている。Webサイト「カーライフサポートネット」では、自動車の維持費削減を目標にメールマガジン「マイカーを持つ人におくる、☆脱しろうと☆ のススメ」との連動により自動車の基礎知識やメンテナンス方法などを幅広く公開している。



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