今日、市場の変化はものすごく速く、そのため納期面の要求が非常に厳しくなっています。新製品は垂直に立ち上がり、あっという間に消えてなくなります。以前であれば1カ月程度の大まかな予測ができた受注見通しも、発注はギリギリでちょっと油断するとすぐ納期遅れということになってしまうのです。さらに受注の山谷が非常に大きいのも特徴であり、遅延に対してのペナルティも格段に厳しくなっています。それに対応する工場のリードタイム短縮努力には限界があり、営業担当としては鉛筆をなめて需要予測を行っても、大きな変更は読み切れず、トラブルを起こしたりします。皆さんの会社や業界ではどうでしょうか?
このような状況になればなるほど、生産能力はショート気味になります。営業担当者は自分の状況を改善しようとしてさらにサバを読み、「何があるか分からないから、早め早めに手配をしておこう」という行動を取ります。しかしたっぷり安全余裕を確保したにもかかわらず納期は守れず、トラブルが頻発します。先ほど説明したように、顧客もこれを避けるために「サバ」を読むのです。
このような状況を引き起こすのは、営業と顧客のサバ読みだけが原因ではありません。工場も「何があるか分からないから、早め早めに作っておこう」というサバを読みます。
「投入できるものはどんどん先行して投入しておきなさい」という指示が出されると、いますぐに着手する必要のない仕事までが工程に投入されることにより、各工程の負荷は跳ね上がります。遅れを防ぐために取った行動が、結果的に新たなボトルネックを作り、さらに遅れをもたらすのです。
そのうえ厄介なのが、前回お話ししたように、工場はコストダウンや生産性向上で評価されるということです。呼び方は企業によってさまざまですが、実態は同じ「たくさん作れば安くなったように見える」という原価計算のパラダイムに基づいた評価指標です。
通常、生産工程は小ロット品を多く流すと、切り替え時間が多くなり生産性が著しく低下します。そこで早め早めに投入された原材料や仕掛かり品を各工程の都合で「まとめ生産」(注2)を行い順番を乱し、さらに納期を混乱させ遅れを増幅させるのです。このパラダイムは「評価」と連動して企業の隅々まで根を張っている非常に厄介なものなのです。
要するに、工場には原価計算から導き出された「皆が忙しく働かなくてはならない」パラダイムと、遅れから身を守る回避策の結果生じる「過負荷」という二重の「ボトルネック工程を生み出す仕組み」があります。日程管理を行う場合に、どれだけ日程に余裕を持たせても能力の余裕がなければ、突発トラブルや、さまざまなばらつきには有効に機能せず、皆が忙しく働けば働くほど工場の効率は低下し仕事は遅れるのです。
注2:まとめ生産 サイズや形状など、同じ条件で加工できるものを連続して作業すること。こうすると生産設備を切り替える回数が減って、工程の生産性が見掛け上高まったように見えるのです。しかし本文中にも説明したように、まとめ生産は数々の弊害をもたらします。
欠品や納期遅れは能力が足りないから起きるのではなく、要らないものを作ることによって、せっかくの生産能力が奪われる結果、発生するのです。欠品や過剰在庫は「サバ読み病の典型的な症状」です。
ではこの病気はどういうものなのか、あらためて考えてみましょう。
「サバ」とは自分専用の安全余裕だということを説明しました。その意識は「何があるか分からないから、早め多めに手配をしておこう」ということです。ではなぜ安全余裕が必要なのでしょうか。
「在庫というサバ」がなければ「もしも何か」が発生した際にまったく対応できません。それは取りも直さず機会損失に直結するのです。この機会損失を避ける意識こそが「サバ」を生み出すのです。多くのサバは「あらかじめ」「多めに」というように工場の能力を奪う方向で設定されます。しかし、持つべき余裕(ゆとり)は日程の余裕ではなく、能力の余裕であることを忘れてはいけません。結局のところ、需要はマーケットが振っているのでもなく、顧客がワガママなのでもなく、自分たちが振り回しているのです。
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次回は、いよいよTOCの根幹となるDBR(ドラム・バッファー・ロープ)の説明に入ります。
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