工場の混乱を壊滅的に拡大させる「3つのサバ」利益創出! TOCの基本を学ぶ(3)(2/3 ページ)

» 2008年03月05日 00時00分 公開

顧客は神様? 顧客を人質にした営業マンのサバ

 このような状況になると、営業担当者は自分が担当している顧客のために工場能力の奪い合いを繰り広げます。

 例えば、いくつかの注文が重なりどちらかの納期を遅らせないと対応できないような場合です。このようなときは常識的に考えれば、納期遅れを了解いただいたり、もしくは外注先を新しく見つけるなど、状況に応じて組織的に対応しなくてはならないはずです。しかし実際のところ、この尻ぬぐいは担当者に丸投げされるのが普通です。しかし担当者なら誰でも、自分の担当顧客の注文を優先させたいので、最終的には声の大きい方が勝つことになるのです。

 有限な工場の生産能力を奪い合うために、営業担当者は意識するとせざるにかかわらず顧客を人質に取ります。「これは顧客の要求だから」「顧客がこういっている」というのは、顧客を人質に取った担当者の典型的なせりふです。そしてこのサバ読みオーダーが工場の能力を奪い、さらに営業担当者の首を絞めているのです。われわれはこの病気を「サバ読み症候群」と呼び、非常に重大な疾病であると考えています。社内に限らず製品・サービスを生み出すためのリソース(経営資源)はどれも有限なのです。

営業を振り回す顧客のサバ

 悪いことに、「サバ読み」に慣れた顧客もサバを読みます、まあ化かし合いだと思っていただければよいでしょう。フォレスター効果(ブル・ウィップ:雄牛のシッポ効果ともいいます)という現象をご存じでしょうか。簡単に説明すると、末端の小さな需要の変化が小売りから卸を伝わってメーカーに伝わる際に実需以上に拡大されたり、急に減ったりする現象のことをいいます(図3)。

図3 フォレスター(ブル・ウィップ)効果 図3 フォレスター(ブル・ウィップ)効果

 例えば今月売れ行きの良かった商品の発注数を小売店Aが5%ほど増やしたとしましょう。すると、小売店から5%増えた発注を受けた卸店Bは、

 「Aでこれだけ売れるんだったら、ほかにも売れるはずだ、早めに発注しないと、欠品する恐れがある」

と判断してメーカーへの発注を10%増やします。注文を受けたメーカーは、

 「Bからこれだけ発注があるんだったら、ほかにも需要があるはずだ、今月の生産量は20%多くしよう」

と考えるのです。しかし工場の能力は急には増えませんし、生産リードタイムは急には縮まりません。そうなると工場はまたまた外注に頼って何とか月末までに20%増の生産計画を達成します。

 問題はここから先に発生します。こうした高原状態が数カ月続くと、需要にかげりが見え始めます。するとこれまで機会損失を恐れて、

 「あるものは全部持ってこい」

とハッパを掛けていた小売店Aが、在庫増を嫌って発注を絞り始めます。しかし、来月分はすでに強気の見込みで発注済みなので、再来月は一気にゼロ注文ということすらあります。するとさらに強気の翌月発注を行っていた卸店Bでは、

 「こりゃ大変だ、来月の分を半分キャンセルしろ」

などということが横行します。工場では全力で走っていたつもりが、気が付いたら地面がなくなっていたようなものです。何が何だか分からず120%生産から、稼働率50%台へ急降下なんてこともあるのです。すでにお気付きのように、顧客も「機会損失を恐れ、サバを読む」ものなのです。ちなみにフォレスター効果の衰退期を「サバ読み返し」と私はひそかに呼んでいます。

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