フォルクスワーゲンがそんなことをしているのなら、地球上のあらゆるメーカーがやっているのではないかと思った人も多くいました。実際に、イタリアのフィアット(Fiat)でも、排出ガス量をごまかす不正が発覚しましたが、こちらは、イタリア人の大らかな国民性を反映したのか、発車の22分間は「優等生モード」、以降は低燃費モードという単純な不正でした(試験時間は19分だったため、22分に設定した)。
フランスでも不正はありました。ルノー(Renault)のディーゼル車は「時速50km未満」で走行中は、排気ガス浄化装置は作動しません。公式の排気ガス試験は一定の高速走行パターンを含むため、試験中はクリーンモードになりました。さらに、同社では「外気温が17〜35℃の範囲内の時だけ、排気ガス浄化装置を稼働させる」というプログラムを組んでいました。同社は、全ての排気ガス操作は、「不正な操作ではなく、エンジンを保護するために必要な処置」として、法律を拡大解釈したと主張しました。
プジョー(Peugeot)のディーゼル車もルノーとよく似た「外温度の範囲」の手口を使い、さらに、試験中の走行抵抗を検知し、試験中と判定したときは排気ガスを極限までクリーンにし、公道に出て異なる負荷を検知すると、排気ガス浄化液の噴射量を20%まで自動で減らす仕様になっていました。同社も、「不正な操作ではなく、合法的にエンジンを保護するための処置」と言い張ります。
スウェーデンのボルボ(Volvo)も例外ではありません。「北欧の厳しい冬の寒さからディーゼルエンジンを守るため、低温時に排気ガス再循環装置をセーブするのは、エンジン保護の観点から合法的な設計である」と主張しました。
米国でも同様で、ディーゼル車の大手メーカーであるGM(General Motors)、クライスラー(Chrysler)、カミンズ(Cummins)も不正に手を染めていました。
日本の状況も気になりますね。日本でもディーゼル車の不正がありました。日野自動車では、試験中にマフラーを交換しました。ディーゼル車ではありませんが、三菱自動車、スズキ、日産自動車は、机上での計算値で排気ガスの実測値を書き換えました。また、ダイハツ工業を皮切りに、トヨタ自動車、ホンダ、マツダ、スズキなど、日本を代表するほぼ全ての自動車メーカーで、車両の安全性をチェックする「認証試験(型式指定)」のプロセス全般で大規模な不正行為が発覚し、大きなニュースになりました。
かつて「環境にやさしい」とディーゼルエンジンは高い評価を受けていました。「ガソリン車に比べて熱効率が良く燃料消費が少ない」「CO2の排出量が少ない」と、2000年代に欧州を中心に「ディーゼルこそ地球温暖化を防ぐクリーンなクルマ」として期待されていましたが、フォルクスワーゲンのディーゼルゲート以降、世界中で次々に不正が発覚しました。ディーゼル車における「パワー、燃費、耐久性」と「厳しい環境規制」の板挟みになり、結局、みんなが不正をしていたのです※2)。
※2)不正の方法に明確なお国柄が見えます。ドイツは「完全に不正で緻密な技術で隠蔽した」、イタリアは「深く考えずに不正をした」、フランスは「法律の抜け穴を突いた(つもり)」、日本は「検査制度の隙間を突き、書類や試験値を偽装した」です。
世界的な不正の発覚により、ディーゼルエンジンのイメージは完全に失墜しました。ディーゼルエンジン車が一挙に衰退し、自動車業界の地図が一変します。ディーゼル不正を行っていた欧米の自動車メーカーは当初、急速なEV(電気自動車)へのシフトを目指しました。しかし、欧州各国や米国がEVに対する補助金を打ち切ったこと、充電ステーションの整備に巨大なコストがかかること、EVの購入をけん引していた富裕層にEVが行き渡ったため大衆向けの廉価版EVを開発せねばならないこと、安価な中国製EVに勝てないこと、などの理由で尻すぼみになりました。現在は、HEV(ハイブリッド車)の開発に注力する姿勢を見せています。
世界の自動車業界に不正のネットワークがあったわけではありませんが、他社のディーゼル車をテストすれば、不正はすぐに分かります。「ここのメーカーもやっている」と分かり、不正をすることにまひしていたのだと思います。フォルクスワーゲンのディーゼルゲートが明かになり、一般庶民は「フォルクスワーゲンが、そんな不正をしているのか」と驚きましたが、世界の自動車メーカーは、「ついに、パンドラの箱が開いてしまった。ウチが糾弾されるのは時間の問題だ」とドキドキハラハラしたことでしょう。当初は自社だけで始めた不正ですが、「他社もやっている」と分かり、積極的に不正を正すことはありませんでした。これは、エンジニアにとって非常に根の深い問題です。
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