MBH(Man Hours per Body)は、「ボディー車体1台を完成させるために必要な総工数(人間の労働作業時間換算)」を示す指標である。
MBHは部品点数の削減によって改善できる。これは、車体製造における「時間のムダ」が根本的に消えるためだ。自動車の車体製造は溶接工程が非常に多く、工程時間のばらつきやロボット動作の複雑さが生産性を下げる大きな要因になっている。公開されている技術資料や研究からも、この構造的な問題が明確に示されている。
ロボットを多く使用していても、段取り、監視、補正、検査などの工程で人手の作業が必ず発生する。このため部品点数が多いほどMBHは増える。
実際に、ギガキャストの導入前後でMBHがどれほど改善するのかを「工程フロー図」で比較してみればわかる。
図12にギガキャスト導入前後の工程フロー図の比較を示す。
図12を見れば、ギガキャストの導入前後でMBHがどれほど改善、変化するかが直感的に理解できる。重要なのは、工程の「数」「複雑さ」「人間が介在するポイント」である。
車体製造では、溶接ロボットが数百カ所のスポット溶接を行う。ある研究によれば、自動車の車体組み立ての約90%がスポット溶接で占められるという。溶接工程は時間変動が大きく、生産ラインのボトルネックになりやすいと報告されている 。
部品点数が多いほど、以下のような影響が発生する。
結果として、1台当たりの処理時間が増え、MBHが悪化する。ギガキャストにより、部品点数が1点になれば、そもそも溶接工程の大部分が消えるため、MBHは劇的に改善する。
溶接工程には、以下のような問題が付きまとう。
溶接品質は電流、時間、位置ずれなどの影響を受けやすい。研究でも、溶接プロセスは時間変動が大きく、ライン性能に大きな影響を与えると指摘されており、その管理は難しい 。
部品点数が減れば、検査工程の関連で以下のような効果が得られる。
結果として、検査に必要な工数が大幅に減りMBHが改善する。
溶接ロボットは、以下のような複雑なプログラムを必要とする。
溶接自動化の技術資料を調べると、ロボット溶接は高度な制御/プログラミングが必要で、設備投資や保守負荷が大きいとされている 。
部品点数が減れば、ロボットプログラムの関連で以下のような効果が得られる。
結果として、ロボット監視や調整に必要な人間の工数が減り、MBHが改善する。
部品点数削減は、単に「作業が減る」ことよりも、「工程そのものを消滅させる」ことが本質である。
これらが積み重なり、車体1台当たりの工数(MBH)が大幅に改善する。
表3に、ギガキャストの導入前後の工程数/MBHの比較を示す。
| 項目 | ギガキャスト導入前 | ギガキャスト導入後 |
|---|---|---|
| 部品点数 | 約70点 | 1点 |
| 溶接点 | 数百カ所 | 0 |
| 溶接ロボット | 数十台 | 0 |
| 検査項目 | 多数(溶接品質含む) | 少数(外観・寸法) |
| 工程数 | 20〜30工程 | 5〜8工程 |
| MBH | 高い(複雑) | 低い(単純) |
| 表3 ギガキャストの導入前後の工程数/MBHの比較 | ||
MBHは企業が公表しない指標だが、テスラがギガキャストを導入したリアアンダーボディーについては以下のようなことが推定できる。
これは、単なる効率化ではなく、工程そのものの消滅による構造的改善である。このように、ギガキャストを考案したイーロン・マスク氏の思想には以下のような特徴がある。
従来「作業者の改善」⇒マスク氏「作業そのものを消す」
例えば、「溶接ロボットを高速化する」のではなく「溶接する必要をなくす」という方向性である。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
モビリティの記事ランキング
コーナーリンク