優れた人材や設備をそろえ、品質保証部門を設けてISO 9001などの国際規格の認証を取得している企業でも品質不正は発生しています。ここには現場での「判断の吸収」が大きく関わっています。本連載では全3回にわたり、品質を「あるべき論」ではなく理論と構造の観点から捉え直します。第1回では現場に焦点を当て、品質について掘り下げます。
優秀な人材がそろっており、最新鋭の設備を備え、品質保証部門を持ち、QMS(品質マネジメントシステム)の国際規格であるISO 9001などの認証も取得している。さらに検査工程も高度にシステム化されている――。それでも、名だたる企業の品質不正が繰り返し報じられています。これはなぜでしょうか。
本連載では全3回にわたり、品質を「あるべき論」ではなく理論と構造から捉え直します。第1回では現場に焦点を当て、冒頭の問いを3つの原因から解きほぐし、これに対応する3つの対策を示します。
品質問題の報道に触れるとき、私たちは無意識に「悪い人がいたはずだ」という前提で原因を探します。しかし、実際の現場で起きているのは、しばしばその逆です。
例えば、現場では次のような状況が起こります。納納期が迫っている一方で、前工程から渡された情報は十分ではありません。判断を上位者に委ねれば工程は止まり、後工程にも顧客にも迷惑が掛かります。だから、その場でなんとかしようとします。ここに悪意はありません。それどころか、強い責任感があります。
品質問題の多くは「規律の欠如」ではなく「判断の吸収」から生まれます。本来は組織として判断すべき事項を現場が引き受け続けた結果、会社が把握しないまま、品質に関する意思決定が積み上がっていくのです。では、なぜ吸収してしまうのでしょうか。以下、3つの観点から見ていきます。
品質は誰のためにあるのでしょうか。おそらく、多くの人は「お客さまのため」と答えるでしょう。職場で「お客さまを意識して仕事をしろ」といわれた経験のある人も少なからずいると思います。では、あなたの工程から、そのお客さまの顔は見えているでしょうか。
販売や営業は日々、顧客と向き合っています。しかし、生産現場や検査、調達といった現場の従業員が最終顧客と接する機会はほとんどありません。多くの人は、顧客から届いた仕様書と数字と納期に向かって仕事をしているのではないでしょうか。
現実として目の前に表れるのは、納期に追われる後工程の担当者や報告を待つ上司、数字を追う営業担当者です。それにもかかわらず、クレームが出たときだけ思い出したように「品質はお客さまのためにある」と言い出します。それが仕組みの改善につながるのであれば問題ないのですが、掛け声だけで終わるのであれば、全く意味はありません。最終顧客から距離のある現場に、「お客さまを意識しろ」と精神論だけで求めても限界があります。まずはその前提を直視すべきです。
品質とは何でしょうか。ここで重要なのは、答えそのものではありません。あなたの隣の席の人は、あなたと同じ答えになるでしょうか。職場に違う答えをする人はいなかったでしょうか。「全員の認識がそろうわけがない」と思われるかもしれません。では、品質の定義がそろっていない職場で、一貫した品質を作ることができるでしょうか。
「当社は品質第一を掲げています」。これに反対する人はほとんどいないでしょう。しかし中身を聞くと、ある人は「クレームを絶対に出さないこと」といい、別の人は「顧客の期待を超える製品を出すこと」といいます。前者にとって挑戦的な仕様はリスクであり、後者にとって守りに入ることは怠慢です。同じスローガンを掲げているのに、2人の意識は正反対な方向に向いています。
MONOistが2023年1月にセミナー来場者187人を対象に実施したアンケートでは、「品質について問題につながりかねないヒヤリとした経験があるか」に60.5%が「ある」と答え、自由回答で最も多かったのはコミュニケーションに起因するものでした。認識のズレは、現実のヒヤリとして現れています。品質とは、職場で最も頻繁に口にされながら、最も定義が共有されていない言葉です。
最後に、現場で働く人の心理に目を向けてみましょう。日本能率協会総合研究所(JMAR)が2025年4月、製造業上場企業の生産/製造/開発部門の係長および一般社員800人を対象に実施した「第3回 従業員の品質意識」アンケート調査で、品質に関する内部通報を「したことがある」と答えた人は3%でした。
問題はその次です。「通報したことはないが、思ったことはある」と回答した人が20%いました。声を上げた人のおよそ7倍です。約3割が改ざんなどの不適切な行為を目撃したとも回答しています。現場は、声を上げないのではありません。言おうとして、やめているのです。なぜやめるのでしょうか。それは個人の人格の問題ではなく、現場特有の「合理性」が働いているからです。具体的には、次の3つの要因が挙げられます。
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