触媒の活性向上燃料電池と構成材料の基礎知識(4)(5/5 ページ)

» 2026年08月04日 06時00分 公開
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6.形状制御型触媒

 ここでPt単独触媒の話に少し戻りたいと思います。カーボンに担持されたPtナノ粒子は、図8Aに示した立方体の結晶構造を最小単位とした構造となっています。立方体の各頂点と各面の中央にPt原子が配置しており、面心立方(fcc:face-centered cubic)構造と呼ばれます。

図8 Ptの結晶構造とさまざまな結晶面のイメージ 図8 Ptの結晶構造とさまざまな結晶面のイメージ[クリックで拡大]

 実際のPtナノ粒子は、このfcc構造の単位格子が3次元に大きくなって1つのナノ粒子が形成されています。一般的なPt触媒の1個のナノ粒子の形状は、きれいな立方体になっているわけではなく、図8Bのイメージの様にいろいろな角度の平面で切り出された形状となっています。

 その切り出された面を結晶面と呼びます。結晶面の呼び方についての説明は割愛しますが、図8のC〜Eには基本的な結晶面の例として、Pt(111)面、Pt(100)面、Pt(110)面と呼ばれる結晶面のイメージを示しています。

 もし結晶面によって酸素還元活性が異なるとした場合、その結晶面が優先的に露出したPt粒子を作製できると、一般的なPt/C触媒よりも高活性な触媒を実現できることになります。

 1980年代頃から、Ptの露出している結晶面の違いが酸素還元活性にどう影響するのかという研究が行われてきていました。その中でMarkovićらは1994年に、Ptの結晶面についての酸素還元活性が次の序列になることを見いだしました[参考資料9]。

Pt(110)>Pt(111)>Pt(100)

 これを契機として、触媒表面の原子配列と活性の関係を解明しようとする研究が盛んになってきました。加えて、Ptナノ粒子をさまざまな形状に制御することで活性を向上させようという取り組みも活発になってきました。また、Pt合金触媒についても、形状を制御することで活性をさらに向上させようという取り組みが多数行われてきました。

 これらの研究例は非常に多く、その中のいくつかの例を表1にまとめました[参考資料10]。Pt粒子の形状を立方体や多面体構造に制御し、その活性が向上することが見いだされています。さらにはPt合金でも同様な多面体構造にすることでPt単独よりも比活性が向上しています。また、多面体構造の各辺だけが残ったフレーム構造を作り上げ、市販Pt/C触媒の22倍もの比活性が達成された研究も報告されています。

表1 Ptの結晶構造とさまざまな結晶面のイメージ 表1 形状制御Ptナノ粒子/Pt合金ナノ粒子の例,表1 Ptの結晶構造とさまざまな結晶面のイメージ,表1 形状制御Ptナノ粒子/Pt合金ナノ粒子の例[クリックで拡大] 出所:「Nano-Micro Lett.(2023)15:83」のデータを基に筆者作成

 この表に挙げた以外にも、ナノロッド状、ナノワイヤー状、ナノプレート状など、さまざまな構造をもつPt粒子/Pt合金粒子が合成され、その酸素還元活性の評価が行われています。

 これまでに多数の形状制御型触媒が開発されてきていますが、実際の燃料電池の出力変動を模擬した電圧変動を繰り返すと、通常のPt粒子の形状に変化してしまって、活性も低下するという例も多いようです。また、ごく少量(数十mg〜数g程度)なら調製できるが大量生産(kgスケール)には適さないという場合もあります。特に生産性の観点では、社会実装にはまだまだ課題が多いというのが現状だろうと思われます。



7.おわりに

 連載第4回では、触媒の比活性を向上させる取り組みがどのように行われてきたのかを説明しました。また、触媒の活性がどのように発現するのか、計算化学の発展とともに解明が進んできた様子も紹介しました。

 触媒の活性向上に向けての取り組みはこれからもまだまだ続いていきます。ただし、活性の向上だけではなく、長期間の耐久性も同時に求められます。次回は触媒の耐久性について解説する予定です。

⇒ 連載バックナンバーはこちら

筆者代表紹介

敬愛(けいあい)技術士事務所 所長・技術士(化学部門) 森田敬愛(もりたたかなり)

1991年4月〜1993年6月、ほくさん(現エア・ウォーター)。1993年7月〜2005年3月、ジョンソン・マッセイ・ジャパンにて燃料電池用電極触媒の研究開発に従事。2005年6月〜2014年3月、田中貴金属工業にて燃料電池用電極触媒や電解用電極の開発などに従事。2014年4月に個人事務所「敬愛(けいあい)技術士事務所」を設立し、現在まで水素・燃料電池分野の技術コンサルティングに従事。


参考資料:

[1]US4447506、特開平2-236960、他多数あり

[2]森田敬愛、固体高分子形燃料電池電極触媒開発の現状と課題、 自動車技術会春季大会燃料電池フォーラム発表資料、2005年5月

[3]J. K. Norskov, J. Rossmeisl, A. Logadottir, L. Lindqvist, et al., Origin of the Overpotential for Oxygen Reduction at a Fuel-Cell Cathode, J. Phys. Chem. B 2004, 108, 17886-17892

[4]Vojislav Stamenkovic, Bongjin Simon Mun, Karl J. J. Mayrhofer, Philip N. Ross, NenadM. Markovic, Jan, Jeff Greeley, and Jens K.Norskov, Changing the Activity of Electrocatalysts for Oxygen Reduction by Tuning the Surface Electronic Structure, Angew. Chem. Int. Ed. 2006, 45, 2897 -2901

[5]Junliang Zhang, et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2005, 44, 2132-2135

[6]Kotaro Sasaki, Junliang Zhang, Jia Wang, Francisco Uribe and Radoslav Adzic, Res. Chem. Intermed., 32, 543-559 (2006)

[7]Radoslav Adzic, Junliang Zhang, Kotaro Sasaki, Tao Huang, Jia Wang, MiomirVukmirovic, Low Pt Loading Fuel Cell Electrocatalysts, DOE Hydrogen Program Review, May 23-26, 2005, Project ID # FC17

[8]NEDO平成27年度成果報告会、固体高分子形燃料電池実用化推進技術開発/基盤技術開発/低白金化技術、要旨集No. F1-1-2

[9]N.M. Marković a, R.R. Adžić a, B.D. Cahan b, E.B. Yeager, J. Electroanal. Chem. 377 (1994), 249-259

[10]Can Li, N. Clament Sagaya Selvam, Jiye Fang, Nano-Micro Lett.(2023) 15:8


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