触媒の活性向上燃料電池と構成材料の基礎知識(4)(3/5 ページ)

» 2026年08月04日 06時00分 公開

4.Pt合金触媒の活性向上の理由

 それではPt合金触媒の場合には、何が活性に影響を与えているのでしょうか。前段で紹介した論文の研究グループは、各種Pt合金触媒の酸素還元活性と触媒表面への酸素吸着エネルギーについて実験と理論計算を行い、最終的に触媒の電子状態と活性の関係を示しました[参考資料4]。

 図5Aは、Pt合金触媒の酸素還元活性と酸素の吸着エネルギー(触媒表面の酸素結合エネルギーと同義)の関係をプロットしています。赤色データは実測値、黒色データは理論計算値です。両者の一致度はよく、データの数は少ないのですが、活性が火山型の序列になるという予測の点線が描かれています。

図5 Pt合金触媒の酸素還元活性とd-band centerの相関 図5 Pt合金触媒の酸素還元活性とd-band centerの相関[クリックで拡大] 出所:Vojislav Stamenkovic, Bongjin Simon Mun, Karl J. J. Mayrhofer, Philip N. Ross, NenadM. Markovic, Jan, Jeff Greeley, and Jens K.Norskov, Changing the Activity of Electrocatalysts for Oxygen Reduction by Tuning the Surface Electronic Structure, Angew. Chem. Int. Ed. 2006, 45, 2897 -2901、一部筆者が追記

 純粋なPt触媒に対して、Pt3NiやPt3CoなどはΔE0がやや増加(酸素の結合力が減少)して、酸素還元活性も増加しています。ただし、Pt3TiではΔE0はさらに増加(酸素の結合力がさらに減少)しつつ、活性は低下しています。図4で示された結果と同様に、Pt合金触媒においても、酸素の適度な吸着エネルギーを示す時に活性が最大になるということが予測されます。

 次に論文の著者らは、酸素が触媒表面に吸着している時の触媒の電子状態に着目し、酸素吸着エネルギーとの関連を調べました。図5Bに示された通り、酸素吸着エネルギーとdバンドセンターのエネルギー値には直線関係が得られました。

 ここで「dバンドセンター」という聞き慣れない専門用語が出てきました。高校化学を少し思い出しながら説明してみます。

 Ptの原子番号は78で、1個のPt原子には78個の電子があります。電子はエネルギーの低い軌道から順番に入っていきます。その中で酸素との結合に大きく関わるのが5d軌道と呼ばれる電子軌道に入っている電子(d電子と呼ぶ)です。

 ここからの説明は少し高校化学の範囲を超えてしまいますが、金属中では多数のPt原子が規則正しく並ぶため、隣り合う原子のd軌道同士が重なり合います。その結果、孤立した原子では飛び飛びだったエネルギー準位が連続的に広がり、「dバンド」と呼ばれるエネルギー帯(バンド)が形成されます。

 d電子は、このdバンドの中でさまざまなエネルギー状態を占めています。そのエネルギー分布の重心(平均的なエネルギー位置)をdバンドセンターと呼んでいます。

 少し予備説明が長くなってしまいました。図5Bで示しているのは、dバンドセンターのエネルギー位置が高いほど(横軸の右方向)、d電子は酸素と相互作用しやすくなり、酸素との結合も強くなります(ΔE0が小さくなる縦軸下方向)。逆にdバンドセンターのエネルギー位置が低くなると(横軸の左方向)、酸素との結合は弱くなります(ΔE0が大きくなる縦軸上方向)。

 最終的には図5Cにある通り、実験値と理論計算値では完全に一致はしませんが、dバンドセンターに対して酸素還元活性をプロットすると火山型の序列が得られました。つまりPt合金触媒のdバンドセンターが適切な位置にあると、Ptと酸素の結合が最適な状態となり、高い酸素還元活性が得られることになります。

 以前のPt合金触媒開発は、さまざまな組み合わせを試行錯誤的に試して評価するというやり方が主流でした。ここで紹介した研究のように、計算化学の発展により、dバンドセンターを計算し、活性が高そうな組成を予測することが可能となってきました。

 最終的には実際に触媒を作製して、活性を評価することが必要となります。触媒の作製方法によっては、同じ組成でも活性が変わる可能性があります。

 現状では理論計算で何でも予測できるわけではありませんが、理論と実験を組み合わせることで効率よく高活性な触媒探索ができるようになってきました。今後のさらなる進展を期待したいところです。

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