多くの製造業が組織間の縦割り構造による、判断スピードの遅延や部分最適化に悩んでいるのではないだろうか。こうした課題に対し、情報基盤の刷新と組織文化改革を進め、その上でAIを組織変革に生かして成果を上げているのが、ガレージや樹脂ホースの製造などを手掛けるカクイチだ。AI時代に勝てる組織構築を進めるカクイチの組織文化改革について前後編で紹介する。
日本の多くの製造業が「スピードが遅い」と指摘される。その要因として大きいのが組織の「縦割り構造」だ。
自組織での工程や作業内容の効率化を進めてきた中で徹底した部分最適化が進み、これらの部門をまたいだ情報連携や判断などが非常に行いにくい構造となっている。組織間調整に膨大な時間がかかり、何をするにもスピードが非常に遅い構造となっている。これらは、個々の部門の最適化で競争力が発揮できる右肩上がりの経済環境では問題なかったが、事業に大きな影響を及ぼす変化が頻繁に発生し、これらに組織として柔軟に立ち向かう必要がある現在では「遅さ」が致命的な競争劣位につながる可能性がある。
こうした課題に対し、AI(人工知能)活用を含むDX(デジタルトランスフォーメーション)により、正面から解決に取り組み、成果を生み出しつつあるのが、ガレージや樹脂ホースなどを製造する長野県のメーカーのカクイチだ。本稿では、カクイチのDXを活用した組織文化改革への取り組みを前後編で紹介する。前編では、主にカクイチの置かれた現状とDXへの取り組みについて紹介し、後編では文化改革として取り組む「感謝体質」経営について紹介する。
カクイチは1886年創業の非常に歴史のある企業だ。祖業は金物問屋だったが、1961年から樹脂ホースの製造に乗り出し、メーカーへと転身した。その後プレハブやガレージの製造、ミネラルウオーターの販売、ホテル事業、太陽光発電事業、ナノバブル事業、MaaS(Mobility as a Service)事業など、多様な事業を展開するようになっている。グループ売上高は350億円で、従業員数は、パート社員を含めて約600人となっている。
この事業内容を見て分かる通り、カクイチの事業は多様でつながりのないものが多い。拠点も、9事業部門で4工場、26営業拠点、72店舗と非常に多くなっており、そのため、事業ごとに他分野との連携なども少なく、社員も“一匹狼型”の働き方となっていた。
「事業が多角化していたため、バラバラで横のつながりがなかった。それぞれの業務内だけの視野なので危機感も薄く、前例主義でさまざまなスピードも遅い状態だった」とカクイチ 代表取締役社長の田中離有氏は当時を振り返る。
さらに、デジタル化やそれに伴う働き方の改善についても非常に遅れていた。基幹システムはCOBOLによる昔ながらの情報システムで、社員の机の上には内部用のPCと外部用のPCの2台が置かれている状態だった。営業マンは全てフューチャーフォン(ガラケー)で、外部とのやりとりはFAXが中心で、社内は紙であふれていたという。
「こうした状態だったので社内でもコミュニケーションミスが頻発する状態だった。伝えたことが伝わらなかったり、そもそも現場で何が起きているのかが分からなかったりするのが日常だった」と田中氏は語る。
市場が右肩上がりで成長している場合は、上意下達で部門ごとに最適化した管理階層型の組織体制で問題はない。しかし、組織の上席者でも正解が分からない見通しの効かない時代に、管理階層型組織で正解を選び続けることは不可能だ。変革の時代だからこそ、ビジョンを共有しつつも、挑戦、失敗、成長などのサイクルを自律的に行い、社員同士が自律的に助け合いながら進む自律分散型の組織体制が求められているといえる。
組織変革を推進したカクイチ 取締役の奥田はと枝氏は「うまくいっている時はいいが、うまくいかない時にこそ、切実な問題が現場で起こる。そこが見えていない上長からの指示は役に立たない。そこで、経営の役割は、現場に武器を与え、それぞれの人をつなぐことだと考えた」と組織変革の狙いについて説明する。
そこで、カクイチでは2018年から3つの変革に取り組んだ。
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