スマートシティーの観点からは、都市のデジタルデバイドの解消とデジタルの公平性の実現を目指す公民連携による統合的デジタルインフラプロジェクトとして、2021年より「ConnectTO」(関連情報)が展開されている。
ConnectTOは、Google傘下のサイドウォーク・ラボが、トロントのウオーターフロント地区のスマートシティープロジェクトから撤退した後にスタートしたプロジェクトであり、トロント市が2022年4月に採択した「デジタルインフラストラクチャ戦略フレームワーク」(関連情報)のプライバシーとセキュリティの原則に準拠している。既に、市内の公共図書館、コミュニティーセンター、リハビリテーション施設、高齢者向け住宅の共有スペースなど、250カ所以上の公共施設に無料の高速Wi-Fiが導入されており、現在、公園や公共の広場へのWi-Fi網拡大に向けた取り組みが進んでいる。
トロント市は、FIFAワールドカップ2026の公式スローガンである「The World in a City(都市の中の世界)」(関連情報)と並行して、大会終了後も、何世代にも渡ってトロントの住民が恩恵を受け、街が繁栄し続けるためのリビングコミットメントとして、「We Are Toronto(私たちはトロント)」というレガシー戦略を推進している(関連情報)。
表3は、トロント市が掲げるFIFAワールドカップ2026のレガシー戦略を整理したものである。5つの柱をベースに、コミュニティーを強化し、機会を広げ、全ての人にとってよりインクルーシブで持続可能な都市を築くための、未来に残るレガシーへの投資を行うとしている。
表3 トロント市のFIFAワールドカップ2026のレガシー戦略[クリックで拡大] 出所:City of Toronto「FIFA World Cup 2026 Toronto >Legacy Initiatives & Programs」(2026年5月22日更新)を基に筆者作成これらのうち「スポーツとウェルネス」では、以下のような取り組みを挙げている。
センテニアルパークは、FIFAワールドカップ2026において、トロント会場で試合を行う各国代表チームが公式練習会場として利用した施設であり、今後、屋外フィットネス場、サイクリングコース、BMX専用センター、遊歩道などが整備される計画である(関連情報)。
2026年6月15日、カナダ連邦政府傘下で、文化、芸術、メディア、公用語、スポーツなどを統括する遺産省は、オンタリオ州南部におけるカナダ発スポーツテック企業の規模拡大および経済的機会の獲得を後押しするため、南オンタリオ連邦経済開発庁(FedDev Ontario)を通じて計130万カナダドルを投資すると発表した(関連情報)。
カナダ遺産省が発表した投資は、FIFAワールドカップ2026がもたらす経済効果を最大化するとともに、開催後も地域に持続可能な経済的レガシーを残すことを目的としている。表4に示す通り、2つの投資先に分配される。カナダ遺産省は、今回の投資を通じてイノベーションと商業化を支援し、企業が国際舞台で競争できる強靭な経済の構築を目指すとしている。
表4 カナダ遺産省の南オンタリオ地域中小企業・スポーツテック支援投資の内容[クリックで拡大] 出所:Federal Economic Development Agency for Southern Ontario「Government of Canada supports sport-tech innovation and entrepreneurship in southern Ontario」(2026年6月15日)を基に筆者作成このうちスポーツテックのハブ機能を担うトロントメトロポリタン大学(TMU)は、2025年11月14日付のSensors誌に「IoTシステムにおけるプライバシー保護技術に関する調査」(関連情報)を発表するなど、カナダ全土におけるサイバーセキュリティプライバシー研究の中核拠点でもある(関連情報)。
加えてトロントは、2024年のノーベル物理学賞を受賞した「AIのゴッドファーザー」として知られるトロント大学 名誉教授のジェフリー・ヒントン氏(関連情報)を輩出するなど、北米有数の巨大なAIタレントプールとなっている。FIFAワールドカップ2026を契機に、都市の未来を見据えたデジタルヘルスとスマートモビリティの壮大な社会実験の場となっているトロントから、どのようなAI駆動型イノベーションが創出されるのかが注目される。
笹原英司(ささはら えいじ)
宮崎県出身、千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(博士(医薬学))。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所、グロバルヘルスイニシャチブ(GHI)等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
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