上記のトロント大学を中心とする地域医療連携エコシステムでは、AI駆動型デジタルヘルスに関する研究も活発に行われている。例えば、トロント大学およびユニバーシティ・ヘルス・ネットワーク(UHN)の研究チームは、2026年3月20日付のnature medicine誌に、「スマートウォッチを活用した心不全悪化の遠隔モニタリング」と題する論文を発表している(関連情報)。
カナダでは、心不全が入院理由のトップ5に常にランクインしており、医療費負担の大きな要因となっている。しかしながら、従来の管理方法では、定期的な通院時のデータに頼るため、通院の合間に起きる症状の変化や初期の兆候を見落とすリスクがあった。そこで本研究チームは、市販のスマートウォッチを用いて、患者が日常生活を送る中で心不全の悪化の兆候を早期に検知できるかを検証した。具体的には、Apple Watchを着用した心不全患者217人を対象に、3カ月間にわたり、心拍数、身体活動量、血中酸素飽和度など、日常生活中のデータを測定/収集している。さらに、UHNが開発し外部検証を重ねたAIモデルを用いて、これらのデータを分析し、心臓と肺の連携機能を示す重要な指標である「日々の心肺フィットネス(cardiopulmonary fitness)」を推定した。
トロント大学の研究チームは、本論文の中で、以下のような成果を報告している。
この研究成果により、医療従事者は患者が救急外来に運ばれる前に異変を察知し、薬の調整や早期介入を行うことが可能になるとしている。また、医療機関へのアクセスが限られている地方や過疎地に住む患者にとっても、遠隔で質の高いケアと専門医とのつながりを提供できるため、医療格差の是正につながると期待されている。今後は、さらにこれらのモニタリング技術を実際の患者ケアに統合し、予後の改善に役立てるための研究が進められるとしている(関連情報)。
カナダでは、スマートフォンやウェアラブル端末に代表されるデジタル技術を駆使し、公共交通網やウオーキングコース、サイクリングルートなどのデータを連携させて、公共資源を健康/ウェルビーイング分野に有効活用する取り組みが盛んである。
トロント市では、市民参加型オープンデータ戦略の一環として、行政上の地域コミュニティーエリア(Social Planning Neighbourhoods)を表示する「Wellbeing Toronto」(図3参照、関連情報)というマッピングアプリケーションを開発/運用している。このアプリケーションは、行政機関による地域計画の策定や意思決定を支援する共通データ基盤を提供するだけでなく、市民やシビックテックが、自分たちの住むコミュニティーの状況を主体的に分析/定義できるようにして、地域の課題について多角的な視点から話し合える場を作ること、そして中小企業やスタートアップが新たなイノベーションを創出するデータ環境を提供することを目的としている。
2026年3月26日、トロント市は「FIFAワールドカップ2026モビリティ計画」(関連情報)を発表した。この計画は、トロント市が、トロント交通局(TTC)やオンタリオ州鉄道(Metrolinx)および公共安全関係のパートナー機関と連携して、アクセシブルな移動の支援や、移動による全体的な影響を最小限に抑えるための措置など、大会期間中に住民、ビジネス、そして観光客が市内をどのように移動するかについての概要を示したものである。
その中で、大会会場周辺をはじめダウンタウン中心部などで、以下のような交通調整が行われるとしている。
トロントは、「トランジットファースト(公共交通優先)」と「データ駆動型のインフラ制御」を掛け合わせた次世代都市交通(スマートモビリティ)の運用モデルを確立するためのテストベッドとして、今回のワールドカップ大会を位置付けている。
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