ストレッチ素材の分別技術を確立したことで、次なる挑戦は、綿、ポリエステル、ポリウレタンが混在する三元系混紡繊維のリサイクルです。これは現代の多機能インナーや高機能シャツなどに多く見られる、より実製品に近い複雑な構成です。
これらに対しては、2段階の分別プロセスを適用します(図4)。第1ステップでは、マイクロ波と酢酸亜鉛触媒を用いてポリエステル成分をテレフタル酸ビス(2-ヒドロキシエチル)(BHET)へと分解・回収します。続く第2ステップでは、残った繊維塊に対しポリウレタン分解用の薬剤を投入し、再びマイクロ波処理を行うことでポリウレタンを除去します。実証実験では、綿71%、ポリエステル25%、ポリウレタン4%の構成を持つ実製品モデルから、高純度の綿繊維と高品質なBHETを個別かつ高効率に回収することに成功しました。
ここで重要なのは、現在市場で普及している吸湿発熱性や速乾性を備えた高度な機能性インナーへの対応です。これらの製品には、アクリルやレーヨンといったさらに異なるポリマー種が組み合わされているケースが多く、現在の技術水準ではこれら全ての成分を完璧に分別・資源化することはまだ道半ばです。従って、多種多様な機能性化学繊維が混在する製品の完全循環は、2030年を見据えた将来的な大きな目標として掲げられています。本技術をベースに、各ポリマーの分解特性に合わせた段階的処理を高度化させていくことが、今後の研究の主眼となります。
今回の技術の社会実装は、アパレル産業の在り方を根本から変える可能性を秘めています。今後の展望として、以下の3つの戦略的な柱が不可欠です。第1にリサイクル拠点の構築とスケールアップです。現在は実験室やベンチスケールでの成功ですが、これを産業規模へと引き上げる必要があります。公的支援を通じたパイロットプラントの運用により、2030年までには国内の廃棄衣料から年間数万トン規模の再生繊維を供給する体制の構築を目指しています。これは、石油資源への依存を減らし、カーボンニュートラルな繊維生産を実現するための確固たる一歩となります。
第2にデジタルプロダクトパスポートを通じた情報の透明化です。将来的に全ての衣料品に素材構成や履歴データが付随するようになれば、回収段階での自動選別と、本技術のような素材特性に応じた精密な分別プロセスがシームレスにつながり、リサイクル効率は飛躍的に向上します。
第3にリサイクルを前提とした製品設計、すなわちデザイン フォー リサイクルの浸透です。技術的に分別が可能になる一方で、メーカー側も将来の分解や再資源化を考慮した素材選定や混紡比率の最適化に取り組むことが、真のサーキュラーエコノミーを実現するための鍵となります。
全3回にわたる連載を通じて、マイクロ波加熱という身近な技術が、繊維リサイクルという巨大な課題に対してどれほどの可能性を持っているかを解説してきました。私たちが日々身にまとっている衣服は、多くの技術者の知恵が詰まった結晶ですが、その役割を終えた後もなお、次の衣服へと生まれ変わる力を持っています。
混紡繊維の分別は、これまで物理的にも経済的にも困難な領域とされてきました。しかし、化学の力とマイクロ波という迅速な加熱手段を組み合わせることで、私たちはその壁を突破しつつあります。美しい服を楽しみ、豊かな生活を送りながら、同時に地球環境を次世代へとつないでいく。そのような持続可能な未来の実現に向け、本技術が繊維産業のパラダイムシフトをけん引する一助となることを確信しています。(連載完)
大阪大学 大学院工学研究科 応用化学専攻 教授 宇山 浩(うやま ひろし)
大阪大学 大学院工学研究科にて、高分子化学を基盤とした持続可能な材料設計と資源循環技術の開発を推進している。主に高性能バイオプラスチックの開発に関する研究に従事しており、分子レベルでの構造制御を通じて、環境負荷を低減する新たな材料設計原理の構築を進めている。
他方で、マイクロ波を用いた混紡繊維の選択的分解技術に加え、廃棄プラスチック製品の再生技術など、物理的分別が困難な素材や廃材を有効な資源へと戻す社会実装研究にも幅広く取り組んでいる。持続可能な資源循環社会の形成に寄与することを目指し、国内外の企業との連携も積極的に展開している。
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