本連載では、大阪大学 大学院工学研究科 教授の宇山浩氏の研究グループが開発を進める「混紡繊維の分別/リサイクル技術」を紹介。第1回では、混紡繊維リサイクルの背景と開発の経緯について解説する。
世界全体のアパレル市場はコロナ禍という大きな転換期を経て、再び力強い拡大傾向にあります。2024年時点での推計値は約1.77兆米ドルに達しており、2030年には約2.26兆米ドルという膨大な規模まで成長すると予測されています。
私たちの生活を豊かに彩る衣料品ですが、その生産と消費の規模が大きくなるにつれて、環境に与える負荷も無視できないほどに増大しています。日本国内の状況に目を向けると、アパレル市場規模は約10兆円に達し、供給点数は年間で数十億点という規模で報告されています。2022年の国内衣料品供給量は約73万トンと推定されていますが、それとほぼ同等の規模で、使用後に手放される衣料品が毎年発生し続けているのが実態です。
世界規模で見れば、その影響はさらに深刻です。毎年9500万トン以上の衣料品が廃棄されており、その大部分が焼却処分や埋立処分に回されています。これに伴い発生する大量のCO2排出量は、地球温暖化を加速させる要因の1つとなっています。
また、衣料品の製造には膨大な資源が投入されています。繊維原料を調達する過程では、年間で930億m3という驚くべき量の水が消費されています。さらに、近年大きな社会問題となっている海洋流出マイクロプラスチックについても、その約5〜6%に相当する50万トン規模が衣料由来のプラスチックであると指摘されています。原材料の調達から生産、流通、使用、そして最終的な廃棄に至るまでの衣料品ライフサイクル全体において、環境負荷の低減とサプライチェーンの健全化は、もはや避けては通れない課題です。
衣料品の多くにはポリエステルなどの合成繊維が使用されているため、アパレルの資源循環を考える上ではプラスチックリサイクルの枠組みを理解することが不可欠です。脱炭素社会の実現に向けて、使用済みプラスチック由来のCO2排出量削減と資源循環型社会の構築は、現代社会における最重要課題の1つです。
現在、日本国内で実施されているプラスチックのリサイクル手法は、大きく分けてサーマルリサイクル、マテリアルリサイクル、ケミカルリサイクルの3種類に分類されます。2023年に国内で排出された約769万トンの廃プラスチックのうち、有効利用率は約89%という高い数値を記録しています。
しかし、その内訳を詳細に分析すると、素材としての循環が十分に行われているとは言い難い現状が見えてきます。有効利用のうち、焼却時の熱エネルギーを回収するサーマルリサイクルが約64%と過半数を占めている一方で、プラスチックを溶融して再利用するマテリアルリサイクルは約22%、化学的に分解して原料に戻すケミカルリサイクルに至っては約3%という低い割合にとどまっています。
マテリアルリサイクルは、一度プラスチックとして成形されたものを再び溶かして成形し直す技術ですが、これには同一素材であること、かつ不純物が少ないことという厳しい前提条件が必要となります。そのため、複数の素材が混ざり合っている製品については適用が非常に困難です。
一方でケミカルリサイクルは、化学分解によってプラスチックを分子レベルの原料まで戻すため、そこから再び高品質なプラスチックを製造することが可能です。理論上は何度でも同じ品質でリサイクルを繰り返せる水平リサイクルを可能にする技術ですが、現時点ではコスト面や特定の不純物に対する反応の難しさなどから、実用化されているのはポリエチレンテレフタレート(PET)などの一部の樹脂に限られているのが実情です。
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