PFASがなくなったら私たちの生活はどうなるか?PFASリスクの基礎知識(3)(2/2 ページ)

» 2026年06月25日 06時00分 公開
[永井孝志MONOist]
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PFASがなくなると私たちの生活はどう変わるか?

 連載第2回の記事で紹介した欧州のPFAS一括規制は、これだけ有用性のあるものをとにかく「PFASの仲間だ」というだけで、リスクの懸念があるかどうかも分からないままに全部やめようという非常に乱暴なものだ。これがいったい私たちの生活にどのような影響をもたらすのかを考えてみよう。

 自動車の燃費は悪くなり、バッテリーも非効率になる。建築資材、屋根、太陽光パネルの寿命は短くなり、より多くの材料を頻繁に交換して使用することになる。電池の性能が下がり、発火のリスクは上昇し、家庭用の蓄電池や電気自動車の普及にもブレーキがかかる。これは温暖化対策に逆行し、環境負荷を増大させることになる。

 モノ全般の寿命が短くなることで、例えば建物の劣化が進むなどして安全性も損なわれる。表面コーティングの性能が落ちれば摩耗が早まり、マイクロプラスチックの排出が増加するなどの別のリスクを上昇させるかもしれない。また、医療現場での安全性も大きく損なわれ、感染を防ぐことが難しくなり、薬は変質しやすくなる。消防活動のリスクも上昇し殉職の増加につながる。すなわち、人間に対するリスクのことを考えても、PFASをやめることで(PFASそのものによる健康リスクはなくなっても)全体のリスクが改善するとは限らない。

 これ以外にも、フッ素系の冷媒もPFASなので代替の必要がある。かつてオゾン層を破壊したフロンガスは現在使われていないが、その代替フロンも大気中に放出された場合に温暖化係数が高いなどの問題もある。ところが、フッ素を含まない冷媒は複数あるものの、効率が劣っていたり燃焼性/毒性があったりするため、あまり普及が進んでいない。PFASをやめると空調機器や冷凍冷蔵機器に由来する火災のリスクが増え、使用エネルギーが増大し、温暖化に対してもマイナスの影響になる可能性すらある。



 以上のようにPFAS、特にフッ素樹脂は私たちの生活に必要なさまざまな製品に使用されており、社会を支える重要な化学物質であることが分かる。このような状況を知らずに「PFAS? なんとなく悪そうなものだから取りあえず使うのやめてみたら?」程度に考えていると、本当にPFASがなくなった時に私たちの生活は大きく変わって悔やむことになるだろう。欧州のPFAS一括規制案では、PFASの用途ごと代替可能性が評価され、代替品が開発されるまでの猶予期間が与えられることになっている。その期間に代替品の開発ができなければ、ここで書いたような懸念が現実のものになる可能性があるのだ。

 連載第2回と今回の第3回で「PFAS問題」の解説はいったん終了し、次回以降はPFOS/PFOAの健康リスクの問題について解説する。

⇒ 連載バックナンバーはこちら

筆者紹介

永井孝志

リスク分析を専門とする研究者。博士(理学)。ブログ「リスクと共により良く生きるための基礎知識」を運営。著書に「基準値のからくり」や「世界は基準値でできている」。国立研究開発法人で化学物質の環境リスク評価等に従事しているが、本記事は所属機関における業務とは無関係である。


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