PFASがなくなったら私たちの生活はどうなるか?PFASリスクの基礎知識(3)(1/2 ページ)

前回は、欧州におけるPFAS一括規制の内容とその問題点ついて解説した。今回の連載第3回では、PFASはどのような製品に使われているのか、そしてPFASがなくなったら私たちの生活にどのような影響が出るのかについて解説する。

» 2026年06月25日 06時00分 公開
[永井孝志MONOist]

PFASの優れた特性

 そもそもなぜフッ素を含むPFASがさまざまな製品に使われるようになったのだろうか? フッ素はあらゆる原子と結合しやすい性質があるが、特に炭素とフッ素の結合(C-F結合)は非常に強力で、これによりさまざまな優れた特性を発揮する。これらの特性は以下のように大きく3つに分けられる。

  • 熱や紫外線、薬品に対して強い(耐熱性、耐候性、耐薬品性)
  • 水も油も両方はじいて滑りが良い(撥水撥油性、滑り性)
  • 電気を通さない(絶縁性)
図1.炭素とフッ素の結合による優れた特性 図1.炭素とフッ素の結合による優れた特性[クリックで拡大]

 炭素と水素の結合(C-H結合)は熱や紫外線、薬品などにより壊れやすいが、C-F結合は壊れにくいため、これらへの耐性を持つ。炭化水素をベースとするプラスチックは熱で形が変形し、火をつけると燃焼しやすく、有機溶剤に溶けてしまうが、フッ素樹脂は形を維持し、火をつけても燃焼せず、有機溶剤の中でも形を維持する。また、C-F結合は安定であるため、分子同士の引き合う力が弱い(表面張力が弱い)のに対して、水や油はそれぞれ引き合って集合する(表面張力が高い)。

 これにより、フッ素化合物上では水や油はそれぞれが引き合って集合し、フッ素化合物の表面から弾かれる。同様に微生物をはじめとする生物もフッ素化合物の表面に付着しにくい。そして、フッ素化合物は表面に触れる物質との相互作用が小さいため、表面が滑りやすくなる。さらに、フッ素樹脂はC-F間の距離が短いため電気的に安定しており、他のプラスチックと比べて最も電気を通しにくい性質がある。

PFASはどんな製品に使われているか?

 続いて、さまざまな優れた特性を踏まえて、PFASがどのような製品に使われているかを解説する。まずは「熱や紫外線、薬品に対して強い」という特性が役に立つ製品から紹介する。自動車のエンジンは高温になることからその部品は耐熱性が求められ、フッ素樹脂やフッ素ゴムはエンジンを小型にして効率化することに役立っている。消防活動での保護具のコーティング剤としても耐熱性が役立つ。

 化学プラント/半導体製造では、さまざまな化学薬品に耐える材料としてフッ素樹脂が必須である。建築資材や屋根、太陽光発電パネルなどは太陽光(紫外線)を常に浴びて劣化するため、紫外線から防御するコーティングが必要となる。これにもフッ素樹脂は最適な素材である。ドームや農業用ハウスなどの屋外構造物ももちろん同様にフッ素樹脂コーティングによって長寿命化される。太陽光パネルがずっとつるつるを保って(紫外線から守り、水も油もはじくのできれいなまま)長寿命でいられるのもフッ素樹脂のおかげだ。屋外で使用する塗料もフッ素系のものは劣化がしにくく、メンテナンスの頻度も下がる。

 次に「水も油も両方はじいて滑りが良い」という特性が役に立つ製品を紹介する。最もイメージしやすいのはフッ素樹脂でコーティングされたフライパンであろう。水も油もはじくため拭くだけである程度きれいになり、滑りが良いので使い勝手も良い。電子機器などもフッ素樹脂コーティングにより水分の侵入を防いで長寿命化できる。

 また、この特性によって微生物が表面に付着しにくくなるため、医療分野で使う材料としても非常に優れている。例えば手術着はフッ素加工されて医療従事者を汚染から守る。血液バッグや人工血管、カテーテルなど、耐薬品性と撥水撥油性の両方が求められる医療用材料にも最適である。

 さらに、薬包フィルムにも使われている。フッ素樹脂は耐薬品性に加えてガスバリア性(空気を通さない)があり、水蒸気透過性はプラスチックの中で最も低いとされている。この性質により、フィルム内の低湿度を保ち薬品を長期間保存することが可能になる。滑り性のおかげで、ギアやベアリングなど摩擦が起きやすい部品をフッ素樹脂でコーティングすることで長寿命化できる。摩擦が減ればエネルギーの損失を防げるため、自動車などの燃費向上にもつながる。

 加えて、摩擦による摩耗も防げるため、摩耗によるマイクロプラスチックの排出も減る。スマートフォンやタブレット端末のタッチパネルの滑らかな操作感もやはりフッ素樹脂のおかげである。

 最後に「電気を通さない」という特性が役に立つ製品を紹介する。この特性を生かしている製品の代表例が、ケーブルや電線の被覆材、プリント基板などである。航空機用の電線など、高い難燃性も求められる場面ではフッ素樹脂の使用で安全性が高まる。フッ素樹脂は加工しやすいのでさまざまな形状のものを容易に作成できる。

図2.さまざまな製品に使われるPFAS 図2.さまざまな製品に使われるPFAS[クリックで拡大]
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