クロスファンクションチーム方式やわいがや方式、情報管理チームなどの根本的な問題は、属人的なスキル、経験、ノウハウに依存していることだ。開発購買推進のためには「製造技術」と「設計技術」という、2つの異なる領域の知識が同時に求められる。
開発購買推進のプロフェッショナルは、両方の領域について詳しいことに加え、サプライヤーに対する知見も必要だ。これらの知識を持ち、開発の場で購買視点から提案できる人材は、長年の経験を積んだ一部の(開発経験を持つ)バイヤーに限られる。
このように、開発購買を成功させるためには、どうしてもスキルがある人に頼らざるを得ない状況がある。結果として開発購買は、「できる人がいればできる、いなければできない」という属人的な活動に陥りがちであり、組織的/継続的な活動として定着しにくいものであった。取り組みが始まって約20年が経過したが、活動が根付いていない理由がここにあるといえる。
また、体制を一時的に整えても、そこで発揮される知見や判断基準が個人の経験に依存したままでは、異動や退職とともに活動が弱まりやすくなる。近年、開発購買活動が積極化しているという話を聞かなくなっている。これはスキルを持つ人間を一時的に集めることができても、それを継承することが難しいからだ。
つまり、開発購買を定着させる上での課題は、専門人材を集めることだけではない。ベテランが保有している技術/コスト/サプライヤーに関する暗黙知を可視化し、誰もが活用できる判断基準やプロセスとして組織に蓄積していく必要がある。
これまで紹介してきた通り、開発購買は部門間の意識のギャップや情報共有の壁、そして高度な属人性といった構造的な難しさから、多くの企業で定着に至っていない。一方で、このような壁を乗り越え、開発購買を継続的な活動として根付かせている企業も存在している。
例えばトヨタ自動車では、「原価企画を実践するのはエンジニアである」という考え方が長年かけて組織文化として定着しており、開発購買の主体がエンジニア自身に置かれている。
また、ある素材メーカーでは、素材開発部門と購買部門を同一組織に統合し、2人1組で開発購買を進める体制を構築している。さらに自動車業界では、バイヤー自身が設計部門に入り込み、日常的にコミュニケーションを取りながら情報提供や提案活動を行うことが当たり前になっている。
これらの成功事例に共通するのは、「誰が目標と責任を持ち、主体となって開発購買を推進するのか」が明確になっている点だ。裏を返せば、開発購買が定着しない本質的な要因は、この「主体を定める」こと自体の難しさにある。しかし、主体が定まり、責任と役割が組織の中に位置付けられれば、開発購買は大きな成果につながる可能性を秘めている。
開発購買がうまくいかない理由を整理すると、製品技術と製造技術の双方に通じた人材が必要であり、それを主体的に推進する人がいない(継承されない)という属人性の壁、という構造的問題に行き着く。このような「活動の主体が定まっていない」という本質的な問題は長年放置されてきた。
一方で、昨今の事業環境変化は調達部門に対してさらなるニーズや期待につながっている。人件費/原材料の価格高騰を受けて、製品価格への一定の転嫁は避けられないとしても、調達部門の本質的な役割であるコスト削減の推進は避けて通れない。
特に、従来のような価格交渉や国内複数社によるコンペといった手法だけでなく、グローバルでより競争力があるサプライヤーの探索、安価で優れた代替品提案の実施など、これまで以上に開発購買推進が求められている。
では、これらの課題はいつまでも解決できないままなのか。後編では、昨今の調達環境の変化を踏まえつつ、テクノロジーの進化と戦略的サプライヤーマネジメントの新しい考え方が、これらの壁をどのように乗り越えようとしているのかを解説する。
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野町直弘(のまち なおひろ)
フォーティエンスコンサルティング株式会社
大学卒業後、大手自動車メーカーに就職。同社および外資系金融業にて調達・購買実務および、調達部門の立ち上げを経験。コンサルティングファームにて調達・購買、ロジスティクス、SCM等のプロジェクトを担当。
その後独立し、調達購買コンサルティングファームアジルアソシエイツを設立。調達購買改革の専門家として調達・購買分野の日本国内での地位向上、バイヤーの育成支援など数多くの活動を展開。
2017年4月よりフォーティエンスコンサルティング株式会社(旧:株式会社クニエ)にて顧客の調達購買改革を支援し、マスタープリンシパルに就任。調達購買にかかるトレーニング講師や調達・購買についての著書執筆、数多くの雑誌での記事掲載、セミナー等での講演を行っている。
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